先にも申し上げた通り、氏は生粋のバンカーであり、トップに任命されたのは、東芝が不正会計問題に加えて米国原発事業で巨額損失を出し、東証二部に降格させられた折の18年4月、「再建請負人」として白羽の矢が立ったにすぎないからです。
いってみれば、車谷氏は銀行出身の「プロ経営者」として招聘された折のミッションである財務再建と東証一部復帰に関しては見事に貫徹できたわけでありますが、日本を代表する超大手製造業の成長戦略をリードすることなど、およそバンカー経営者のミッション外であるわけです。退任を迫っていたアクティビストの主張はまさしくそこがポイントであり、そこを理解せずに自らのミッションを超えてトップの座を無理に死守しようとしたことで、奇策を講じ実質解任という残念な結果を迎えてしまったといえます。
日本でも「プロ経営者」の登場が珍しくなくなった昨今ですが、この東芝・車谷氏のような悲劇を生まないためにはどうしたらいいのでしょうか。
そのためには、雇う側・雇われる側にそれなりの意識が必要なのではないか、と思います。プロとはいえ、必ずしもオールマイティーではないのは、どの世界でも同じことです。例えば医師の世界で、同じ医師免許を持っていても、その経歴に培われた結果としておのおのが専門分野を持っていることを考えれば分かります。バンカー経営者の車谷氏の場合、財務立て直しは専門分野ですが、大手製造業の成長戦略策定は畑違いなわけであり、リストラ完了による東証一部復帰を手土産に勇退するのが筋であったと思います。
バンカーではありませんが、日産自動車元CEOのカルロス・ゴーン氏も、ミシュランを立て直した実績からコストキラーと呼ばれていました。その財務再建手腕を買われて、瀕死の状態にあった日産の再建を託され、資本支援元のルノーから派遣された、まさに「プロ経営者」です。ゴーン氏は自身のミッションである、リストラによる業績のV字回復を「日産リバイバルプラン」としてコミットし、税効果という裏技もあったにせよ、約束よりも早い2年でこれを達成し、プロ経営者としての技を見せつける形となったわけです。
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