東芝だけじゃない! プロ経営者の功と罪 車谷、ゴーン、原田泳幸に見る、“失政”の本質東芝、日産、マック、ベネッセ(4/4 ページ)

» 2021年06月18日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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 14年に起きた食品賞味期限問題および異物混入問題で、原田氏はマクドナルドが被害者であるかのような物言いで問題をすり抜けようとしたことから、かえって大きな社会批判にさらされてしまいました。初動の誤りに対する利用者からの批判は止まず、問題は長期化。マクドナルドのブランドは著しくき損し、かつてないほどのダメージを被ることになったのです。原田氏の戦略は迷走し、長期にわたり事態を打開できず、最終的に組織を追われます。リスクマネジメントは、プロ経営者・原田氏の守備範囲ではなかったのでしょう。

 それをさらに決定付けたのが、マクドナルド退任後に原田氏をプロ経営者として迎え入れたベネッセコーポレーションでのリスクマネジメントです。

 そもそもアップル、マクドナルドでの前向きな戦略マネジメントを買われての登板でしたが、就任直後に運悪く不祥事に見舞われます。2000万件余の個人情報漏えいが発覚したベネッセ個人情報流出事件です。原田氏は漏えいしたと思しき名簿登録者に一律500円の金券を配るという対応策をとったものの、これがむしろ利用者の反感を買い、大規模な顧客離れが起きて同社は赤字に転落。プロ経営者の手腕が疑われたまま、退任の憂き目に会いました。

プロ経営者は万能ではない

 このように、プロ経営者の登用には、その人を指名した目的、すなわちミッションがあるはずであり、その登用時には雇う側・雇われる側でミッションをしっかり共有する必要があるのではないかと考えます。

 そして、特定のミッションを貫徹した場合、社内外から退任が望まれている場合、あるいはベネッセの原田氏のケースのように不可抗力によってミッションの大幅変更を余儀なくされた場合は、その段階で一度、ミッションをクリアすることも肝要かと思います。それをしないことが、いかに雇う側・雇われる側双方に不幸をもたらすことにつながるのか、いくつもの事例が雄弁に物語っているからです。

プロ経営者は「ミッション」の共有が重要(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 今、東芝が再び揺れています。20年、車谷社長時代の株主総会で、車谷氏体制の立場を悪くするアクティビストの提案をしりぞけんとして、経産省までをも巻き込んで不正な総会運営があったとする第三者委員会の報告がなされました。もし車谷氏がミッション完遂後も社長のイスにしがみつかんとして、ガバナンスまでも揺るがすような行動に出ていたとすれば、畑違いのプロ経営者・車谷氏が東芝に残した負の遺産はあまりに大きすぎます。

 車谷氏の一件が世間を騒がせている最中、ロッテの社長に元ローソン社長(退任時は会長)の玉塚元一氏が招聘されたとの報道がありました。創業家の主導権争いに加えコロナ禍で業績低迷に苦しむロッテが、成長戦略の担い手として著名なプロ経営者である玉塚氏を選んだ形です。

 しかしながら、ファーストリテイリングで「創業者の後継に」との期待に応えきれず、ローソンでは改革のスピード不足に親会社である三菱商事から引導を渡された感が漂っている玉塚氏ですから、今回のミッションでお互いに不幸になる可能性はないだろうかと、ついつい考えさせられます。東芝の一件は、我が国の企業経営におけるプロ経営者招聘にはよほどの慎重さが求められると、あらためて感じさせられるに十分すぎる事件なのです。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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