半沢直樹を笑えない? 現実に起こり得る、メガバンク「倍返し」危機とは「証券いじめ」も今は昔(1/4 ページ)

» 2020年08月24日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 7年ぶりにテレビに登場したドラマ「半沢直樹」が、今回もまた好調なようです。最終回の視聴率が40%を超えた前シリーズから「待ちに待った」という感が強いからなのでしょうか、あるいは勧善懲悪なストーリー展開と銀行がお灸を据えられるかのような描写が、長引くコロナ禍の環境でたまったストレスの発散にちょうどいいあんばいなのでしょうか。いずれにしても元銀行勤務者の一人として、悪の巣窟的に描かれた銀行を舞台にしたテレビドラマが国民的人気を博しているというのは、なんとも複雑な気分ではあります。

出所:TBS公式Webサイト「日曜劇場 『半沢直樹』」ページ

 今作は前作に比べて一層の勧善懲悪トーンが強く、一部ではその演出から時代劇的とも言われているのですが、私はこのドラマに別の意味で「時代劇」を感じています。というのは今回のドラマの舞台設定自体が、銀行に関わってきた人間から見ると今の時代の銀行とはおよそ懸け離れた、少なくとも10年以上は前の銀行が舞台に違いないと確信を持てるわけで、これは確実に「時代劇」であると思うのです。正確には「近時代劇」でしょうか。銀行と系列の証券会社が客を奪い合うとか、銀行が系列の証券会社をいじめるとか、この辺りは原作者の池井戸潤氏が銀行(旧東京三菱銀行)に在籍していた時代なら大いにあり得た話ではあるのですが、今の時代ではおよそ考えられない設定ではないかと思います。

 では今の銀行、特にドラマ中の東京中央銀行のモデルであるメガバンクはどうなのかといえば、その経営環境からしてドラマとは様変わりです。きっかけは、2016年に日銀がとったマイナス金利政策、つまり日銀への預け金利がマイナスになるという前代未聞の政策でした。市中金融機関の預金金利は当然のごとく限りなくゼロに近づき、同時に貸出金利も空前の低金利時代に突入しました。ただでさえ「超」が付く低金利時代が続いていた中でのさらなる金利引き下げにより、メガバンクが好んで融資をしていた大企業や優良企業向けの貸出金利が生む利ざや商売では融資コストを吸収できない、という事態に陥ったわけなのです。

 日銀はローリスク=ローリターンの優良企業向け貸し出し競争に群がる銀行に対して、これからはミドルリスク=ミドルリターン融資を増強し生き残りをはかれ、と「事業性評価融資」なる言葉を用いました。保証や担保に頼らず、事業の将来性を評価して貸し付ける融資姿勢に改めるよう号令を掛けたわけです。基本的に国内市場のみで戦う地方銀行は、できるかできないかは別としてこれに従わざるを得ませんでした。一方で、国外にも足場を持つメガバンク各行は一斉に海外業務に力を入れ、国内で利益が減る分を海外での融資およびプロジェクトファイナンス(企業ではなく特定事業への融資)組成やM&A仲介の手数料でまかなおう、という動きにシフトしたのです。

日銀の号令で、メガバンクは海外へと目を向けた(出所:ゲッティイメージズ)

 現実、2010年以前は営業利益に占める海外部門の比率で20%前後だったメガバンク3行ですが、新型コロナの影響を受ける前の19年度3月期の決算では、三菱UFJが約40%、三井住友、みずほでも30%を超え、メガバンクの収益源が大幅に国内から海外へ移行していったのが分かります。一方、国内業務に関しては一言でいえば縮小均衡方針に転じ、徹底したコスト削減、例えばコンビニバンキングへの誘導などによる店舗の大幅な統廃合をはじめ、マス取引に対する消極姿勢が色濃く打ち出されました。このような大きな業務姿勢転換の中で、メガバンクが唯一力を入れて取り組んでいる国内業務が、個人富裕層取引です。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.