ニチガス流「100点を目指さない、70点のDX」 社内システムのデジタル化が、“社外で売れる”DXにつながる雲の宇宙船(2/3 ページ)

» 2021年12月13日 13時00分 公開
[小林泰平ITmedia]

松田: もともとは、社内の基幹システムをデジタル化しようと2011年に始まりました。今やどんな業界でも当たり前に行われていることですが、エネルギー業界は自動化や機械化、あるいはコストダウンが非常に遅れています。ですので、これだけでも大きな効果がありました。

photo 雲の宇宙船の概要

松田: 例えば、雲の宇宙船により約90%のデスクトップ業務のモバイル化が実現しました。当社員の業務は、営業、配送や保安、検針など、ほとんどが外でのフィールドワークです。紙の作業がなくなり、モバイルデバイスで管理できるようになるだけで、生産性は大きく向上。社員が毎日事務所に戻る必要もなくなりました。

小林: ここまでは、あくまでデジタイゼーションですよね。それをなぜ外部サービス化しようと考えたのでしょうか。

松田: このシステムがエネルギー業界の他企業から注目されたのです。であれば、外向けにサービス化しようと。私がニチガスに参画し、雲の宇宙船の事業に携わり始めたのもこのタイミングでした。

photo デジタイゼーションとデジタライゼーションの違い

小林: つまり、最初はデジタイゼーションとして始めたものが、効果が予想以上だったためにデジタライゼーションへ広がったんですね。

 このプロセスはとても大事だと思っていて、今は最初からデジタライゼーションを目指す企業が多いのですが、いきなり事業をデジタル化するのは簡単ではありません。成功の道筋も浮かびにくい。その結果、身動きを取れずにいるケースが多く見られます。どの企業も、多額の費用をかけながら採算が取れない形は避けたいでしょうから。

 しかし、それはデジタルの導入を遅らせるばかりですよね。それならむしろ、最初は小さなデジタイゼーションでいいから、とにかく初めてみる方が重要だと思います。社内業務に月額500円のSaaSを導入するだけでも構いません。そのレベル感でデジタルの小さな成功体験を少しずつ積み重ねないと、デジタル化が止まってしまう。

壮大なデジタライゼーションを描いて動けなくなるのは大きなリスク

photo 日本瓦斯 執行役員 エネルギー事業本部 情報通信技術部 部長 松田祐毅氏

松田: そうですね。昔は一つのシステムを10年スパンで使うこともありましたが、今は技術の進歩が早く、一システムが10年持つことは考えにくい。かつてのように、コスト数億円、長期間の開発を経て新システムを導入するイメージは描かない方が良いですよね。

小林: しかも、多かれ少なかれ、企業はかつて数億円かけて導入したシステムが期待通りではなかった経験を持っていますから。高いコストでデジタル化を行うとなると、どうしても腰が重くなってしまいます。でも今は考え方を変えて、ライトな導入で良いと思います。まずは社内のライトなデジタル化を通して、成功体験を作ることが大切かなと。

松田: 私もあるとき、ニチガスの営業社員の現場を見たのですが、社員は顧客リストを紙で管理していました。そこで、紙の情報を地図アプリにインポートして情報一元化すれば見やすいと提案し、すぐに実装したんです。これは市場に出ているアプリの機能を使っただけなので、コストはほぼかかっていない。営業社員からはもちろん好評で、次第に追加の要望が上がってきました。それを取り入れながら機能を強化していった結果、当社で独自アプリとして開発した経緯があります。

小林: ニチガスでは、ブロックチェーンを使ったコールセンター向けサービス「ニチガスサーチ」も自社開発していますよね。これはどんな始まりだったのですか?

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