企業のブランディングなどを手掛けているAさん(30代)は、正社員の仕事で培ったスキルを生かせること(Can)はもちろん、留学経験のあるイタリアに関わる内容だったからこそ魅力を感じ、「楽しいと思える仕事がしたい(Will)」と、この副業に携わることを決めたという。
世の中にどのような価値を提供したいのかをヒアリングするなど、依頼者の思いに寄り添いながら業務に取り組んだというAさん。時には自身が訪れたイタリアに思いをはせたり、ECサイトから家具を購入した人たちの笑顔を想像したりしながら、前向きな気持ちで業務を実行できたという。
本業で培ったスキルを生かして(Can)、世の中の役に立ちたいと副業を始めたBさん(30代)。副業では好きなことを仕事にしたいと、移住という自分の興味のある分野の副業(Will)に携わることを決めたという。
本業でも副業でも、アウトプットのクオリティーを変えるつもりはなかったが、好きだからこそ、自然とモチベーションが高くなり、アウトプットの質は高いものになったと感じているそうだ。
一方、経営者側も企業のWillに共感し、能動的にやりたい意志のある人と一緒に仕事がしたいと考える人は多い。JOINSのサービスで、副業人材を活用した兵庫県神戸市の給食・飲食業の社長は、「法人への外注だと、その担当者はどうしても仕事として受け身になりがち。私たちの思いに共感してくれる副業人材に出会えたことで、成果につながりました」と話す。
こうした実態は企業側が指示した業務を決められた期間・金額内に実行する外注的な活用の仕方とは一線を画す動きだ。これこそが「社員的な活用」の可能性を示唆すると考えている。
2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート〜」では、労働人口減少を迎えている日本において、企業が今後実行すべき人材戦略の重要なテーマの一つとして従業員エンゲージメントの向上をあげている。
従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようと意識を持っていること」。言い換えると、組織の目指すゴールに対する自発的貢献意欲のことだ。そして、これまで経営者がこの自発的貢献意欲を求める対象は主に正規雇用(社員)であった。
2040年は労働生産人口が20年から2割減となることを見据えると、正規雇用者数は約3500万人に対して、副業人口は約450万人とまだ1割超にしか満たない。そのため今後も正規雇用者が組織の多数を占めることは変わらないが、正規雇用者の1〜2割程度は積極的にこうした副業人材を社員の一員として活用していくことは十分考えられる。
企業の人材戦略・従業員エンゲージメントの高い組織作りの選択肢の一つになるのではないだろうか。特に地方の中小企業では、距離の壁・年収格差の壁を超えて採用できるこうした副業人材の活用方法は、大きな可能性を秘めていると考えている。
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