「ホテルの賞味期限は10年」 インバウンド向けに急増したホテルが直面する“厳しすぎる”現実瀧澤信秋「ホテルの深層」(2/4 ページ)

» 2022年01月05日 06時00分 公開
[瀧澤信秋ITmedia]

多様な業態がフォーカスされる

 筆者は、ホテル評論家になって以来約8年間、業態を横断的に評論するスタンスを堅持してきた。業態とは、シティーホテルやビジネスホテル、リゾートホテルをはじめ、旅館、レジャー(ラブ)ホテル、カプセルホテルやホステルといったカテゴリーのこと。評論にとって比較することは重要な要素であり、比べてはじめて見えてくることを大切にしてきた。

 実際、インバウンド活況からコロナ禍と激変した業界と共にあった評論家仕事においては、比べてはじめて分かる体験のオンパレードであった。簡素さから豪華さへ変貌を遂げる宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)など、業態のボーダーレス化もひしひしと感じていた。その点を当初から指摘していたが、正直業界内でもあまり相手にされなかった。

 当時のホテルジャーナルの世界では、ホテルといえば“華やかなラグジュアリー”が席巻しており、ビジネスホテルやカプセルホテルにフォーカスしていた自身は奇異な目で見られたものだ。

ホテル (画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 時に高級ホテルの取材現場で他のメディア関係者に会うと「タキザワさんこういうところにも来るんですね〜」「ビジネスやカプセルはタキザワさん専門ですよね?」などと、からかい半分で揶揄(やゆ)されたこともあった。

 その後、隆盛していったインバウンド需要の高まりと旅行者嗜好(しこう)の多様化により、各業態が新たなチャレンジを続け、結果として宿泊業全体で従来の概念が通用しなくなっていった。その結果、ラグジュアリーを尊んでいたホテルジャーナルも、ビジネスホテルやカプセルホテルにフォーカスするようになった。

 国策ともいえるインバウンド活況〜東京オリンピックが、宿泊施設の供給過剰を生み出したことについて今回は触れないが、各業態で過去の常識が通用しない進化をもたらした。それは、現場で日々奮闘しているホテルスタッフの知恵の集結でもあり、ゲストから支持されるホテルとは何か? と問い続けている姿でもある。

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