ソニーはVISION-Sのコンセプトを、セーフティ、アダプタビリティ、エンターテインメントの3つの領域で説明している。ここでドライバビリティなどの要素がないのは、ソニーが見据えているのが、電子化が大幅に進んだEV+自動運転の世界をにらんでいるからだろう。
無論、言うまでもないことだが、その先には自動車以外も含んでいるからこそ、ソニーグループは新しい事業会社を「ソニーモビリティ」と名付けたのだろう。
VISION-Sのコンセプトに含まれる、具体的なソニーユニークな要素、体験価値は、それぞれを個別にみると全くの新味があるわけではない。
ソニーがCMOSイメージセンサーやLiDARセンサーを得意分野にしていることは既知であり、単純なセンサーの供給にとどまらず、映像処理技術などを組み合わせたアプリケーションのレベルで自動車メーカーに提案してきた。
センサー自身の開発、生産を背景にアプリケーションまでを並行して作り込み、ソリューションとして価値創造を行う手法を、自社設計のクルマへの組み込みというさらに下流までを統一した価値としてまとめ上げられればそこに勝ち目はありそうだ。
アダプタビリティに関しても、車内環境をセンサーで検知しながら、パッセンジャーの様子を伺いつつクルマの振る舞いや環境をパーソナライズするというのは、常に飼い主やゲストの様子を伺いながら動作するロボット「aibo」に通じている。
実際、ソニーモビリティにaibo事業は移管され、そのエンターテインメントAIともいうべき技術はVISION-Sにも応用されていく。
カーエンターテインメントに、立体音響技術や映像技術で培ってきたノウハウが生かされることは言うまでもない。単に音質、画質といった領域だけではなく、ドライブレコーダーの映像そのものを自動編集し、あとから旅行を振り返る機能などは、ソニーならではの発想だ。
個々に分解すれば、いずれもソニーグループが持つ事業価値だが、それをEV時代に投影しパッケージし直すと、別の違った景色が見えてくる。
実はこうした新領域拡大の事例は、ソニーグループにとって初めてのことではない。オリンパスと共に取り組んだメディカル事業では、得意のイメージセンサーと映像処理技術で成果を挙げていた。
コロナ禍以前には、ソニーグループ内の研究開発テーマを集めてプレス向けに(一般的なソニーの事業ポートフォリオとは別の領域の)技術を展示、披露する機会が設けられたことがある。残念ながらコロナ禍では2回目以降が開催されていないが、振り返ればVISION-Sを構成する“ソニーユニークな要素”には、当時の展示内容が色濃く反映されていた。
吉田社長が就任してもうすぐ4年、その前に実質的に国内の経営を任されていた時期を含めれば5年。静かにソニーグループは社内の改革を進め、自らのパーパスを認識した上で動き始めていた。
EV本格参入に驚かされた22年1月だが、さらなる驚きはまだこの先にあるのかもしれない。
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