ソニーは、“自身の役割“をどこに見つけたのか EV参入に勝ち目がありそうな理由本田雅一の時事想々(2/3 ページ)

» 2022年01月22日 09時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 社長就任前から平井前社長と、得意なことやキャラクターが異なる2人による二人三脚経営が見えていたが、実は対外的な社長交代が発表される1年前から、ソニー本社の経営の多くは吉田社長が担っていた。

 ネットフリックスなどの台頭に対して映画業界の再編が進みつつある中で、ソニー・ピクチャーズのトップが個人的な事情で退任せざるを得ず、平井前社長がカルバーシティ(米国カリフォルニア州)のソニー・ピクチャーズ本社に張り付いて組織の動揺を抑えていたからだ。

photo 吉田憲一郎社長=2020年撮影

 電機メーカーとして全盛期にあったソニーに入社しつつも、金融部門やネットワークソリューション部門を渡り歩き、ソニーネットワークソリューションズ(ソネット)を成功に導いた吉田社長は、ソニーのDNAがエレクトロニクス機器にあることを十分に理解しながら、それ以外のジャンルに自分達が持つ事業価値を見出せると感じていたのではないだろうか。

 実質的に本社経営を任される立場で、平井前社長とバトンタッチをする1年前から、リサーチ部門が提出する情報を精査し、ソニーによるソニー自身の事業価値について冷静に自己分析を行う時間があった。

 誰と話すときにも、欠かさずノートにメモを取りながら、また何かの合間にもノートを見返す几帳面な吉田社長は、かつての成功体験や他人の意見に左右されない自分なりの”ソニーのパーパス”について、当時から確信を持っていたに違いない。

EV参入はいくつかある解答の一つ

 吉田社長が最初にソニーの存在意義を見直した上で手を打ったのは、クリエイターの創造力を高めるため、社内にある製品、サービス、要素技術を組み立て直すことだった。

 立体音響技術は、新しい世代の音楽クリエイターを刺激し、音楽配信サービスやそれらを再生する技術(と組み込んだ製品)へとつながる新しいバリューチェーンを産んでいる。

 撮影セットを3Dスキャン、再現する技術や、背景を巨大なLEDディスプレイで実現する技術など、実写映像を仮想化技術と組み合わせて提供する「バーチャルプロダクション」と呼ばれる技術は、映像作品の制作方法に革命を引き起こしつつある。

 映像制作とゲーム制作の2つを企画・制作段階から並行して行う取り組みも、まずは大ヒットゲーム「アンチャーテッド」からトライアルが始まった。以前からの強みであるプレイステーション事業は、そもそもがゲームクリエイターとの“共創”が成功をもたらしたものだ。

 吉田社長が就任当初から、音楽、映像、ゲームなどそれぞれのクリエイターにとって、ソニーグループがどのような役割を担えるのかについて言及していたのは、まさにこのことだったのかと膝を打ったのは筆者だけだろうか。

photo ソニーグループは22年春、EVの新会社「ソニーモビリティ」を設立する。CES 2022では、コンセプトEV「VISION-S」のSUVも発表した=同社のニュースリリースより

 20年1月のCESで、吉田社長がコンセプトEV「VISION-S」を発表した際には、あくまでも可能性を追求するための取り組みだと話していが、それが具体的な事業化へと進んでいるのは、そこにソニーグループが取り組むべき理由があるからだ。

 ただし、EVだけが解答ということではない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.