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ソニー半導体「27歳営業リーダー」の仕事術 なぜストーリー作りを重視するのか教えて!あの企業の20代エース社員(1/2 ページ)

» 2024年05月20日 08時30分 公開
[中西享ITmedia]

 モノ作りが得意だったソニーグループ。その半導体事業会社ソニーセミコンダクタソリューションズが、コンビニなど顧客の要望に最適なソリューションを提供するビジネスを展開している。

 センサー技術を得意とする同社は、AIを駆使したエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS(アイトリオス)」を展開。その最前線で働く27歳の深山大輔さんに、社内の調整や顧客との交渉を通して最適解を生み出す醍醐味を聞いた。

深山大輔(みやま・だいすけ)氏。2019年にパナソニックに入社。2022年にソニーセミコンダクタソリューションズに転職、システムソリューション事業部に配属となり、2023年10月からリテール担当のリーダーに任命された。27歳。千葉県出身

50代社員も率いるリーダーはパナソニックからの転職組

 2019年4月に大学を卒業した深山さんは、グローバルで裾野が広いメーカーの仕事がしたいと考えパナソニックに入社した。B2Bのデバイス(部品)系の事業の仕事、具体的にはリチウム電池の海外(欧州)営業とマーケティングに3年間従事。この間、研修が終わり、実際の海外営業に入る際に、まさにコロナ禍にぶち当たった。海外にも行けなくなってしまうことに。

 「この部品の仕事は製品のライフサイクルが長いので、新しい付加価値を出しにくいと感じました。顧客に新しい価値を提供したい」との思いも強くなり、転職を決意したという。

 2022年に転職活動をする中で、イメージセンサーを活用したビジネスが、単なるモノ売りだけではなく、サービスを含め「コト売り」事業の営業、開発の仕事ができると思い、同年5月ソニーセミコンダクタソリューションズに入社した。「最初の就活の時から志望していた仕事の延長線で『コト売り』にもチャレンジできる新規事業なら、顧客にも幅広く提案できますから、きっと面白いと思いました」と振り返る。

コンビニや大手小売にソリューションを提案 パートナーを探す

 最初に担当したのは、ソニーのセンシング技術を使ってコンビニや大手小売にソリューションを提案する仕事だった。

 「まずはわれわれのセンサーを活用したソリューション開発をかついでくれるシステムインテグレーターや、AIを開発してくれるAIデベロッパー、アプリケーションを作ってくれるパートナーを見つけてくること。そして、実際にソリューションを提供する顧客を開拓することから始めました。当時はリテール系にサービスを提供する仕事が確立していなかったので、最初から自分で探さねばなりませんでした」

 プロジェクトを実施してくれるパートナーを探し出すことから始めることに。具体的には、AIソリューション関連のヘッドウォータースやAWL(アウル)などの企業と組みながら、リテールの顧客にソリューションを提供する担当となった。

 ソリューションの提供先として、コンビニ大手のローソンのプロジェクトを任せられることに。小売の分野で大きな仕事をするタイミングとなった。

 「自分たちのソリューションだけでなく、パートナーと初めて一緒に作っていく部分もあり、チャレンジの多い案件でした。どう進めたらよいか分からない部分もありました。提供するプロダクトもイメージセンサーのハードウェア事業ほどマチュア(成熟)ではなく、手探り状態からのスタートでした」

ローソンに最適ソリューションを提供

 ローソンとはこれまで取引関係や人的なつながりが全くなかった。深山チームはローソンにAITRIOSと、後述するインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」を活用したオペレーションの改善提案につなげる試み(店舗DX)を実施した。具体的には、商品棚の陳列状況(商品が適切な位置に並べられているか)を効率的に自動検知。集合陳列や販促POPが適切かといった支援施策が実施されているか否かを可視化した。実証実験は2023年3〜8月で終了し、現在も引き続きローソンと話し合いを続けている。

 「単純に品物があるかどうかだけなら、POSデータで把握できます。一方この手法を使うと商品の陳列状況と、販売状況との相関関係を分析できるので、われわれのデバイスで可視化をしていきます。そうすることでローソンが目指している、そのお店としての最適化を実現できるのです。店員が並べた商品が正しく陳列されているかなども、リモートでチェック可能です」

 このほか4月24日にはセブン-イレブンも含めたコンビニに、店内の電子看板の広告効果を測定する視認検知ソリューションを国内500店舗に導入することを発表。AIを搭載したカメラが客の動きを把握し、検知エリアに入った人数や、陳列棚の上などに設置した電子看板広告(サイネージ広告)を見た人数や属性などを計測して可視化する。

 コンビニ以外では大手スーパーやドラッグストアとも商談中だ。センサーを使ったソリューションビジネスはさらに成長しそうである。

エッジAI技術により、商品棚の商品とPOPを自動検知

広がるリテールメディア

 最近はコンビニなどの店舗内に大きなスクリーンがある。そこには小売店の自社製品だけでなく、他社の商品広告を動画を使って映し出すことによって、小売店が広告収入を得る「リテールメディア」が普及した。

 ここにソニーのカメラを設置すれば、どのようなお客が、どのCMを振り向いて見てくれたかデータを集めることが可能だ。これを分析することによって消費者がどんな商品に関心を持っているかを解析できるという。

 「来店したお客さんは、サイネージ広告をよく見ているようで、われわれはその視聴率データを、分析する会社に提供します。視聴率に応じた適切なコンテンツを検討することができます。広告を流しっぱなしでは終わりません」

センサーがAI処理

 IMX500は、世界初のAI処理機能を搭載し、2020年5月に商品化されたイメージセンサーで、ソリューションビジネスの武器として小売店舗の在庫検知などで活用する。

 センサーだけでAI処理ができる性能があり、取得した画像の中から必要な情報だけを出力するため、データ処理量を大幅に低減できる。消費電力や通信コストを削減できるメリットがあるという。これまでは、事例ごとにクラウドに上げてAI処理したり、センサーとは別にAI処理するためのコンピュータを準備したりする必要があった。

 IMX500を搭載したAIカメラは「AI処理までしてくれるため、ほかの機器を設置する必要がなく、コストも下げられる。ハードだけでなくソフトも含めたプラットフォームを提供しています」(深山さん)という。

インテリジェントビジョンセンサー(IMX500)搭載のエッジデバイスを店舗に設置
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