そうはいっても、深山さんは入社して2年しかたっていない若手社員だ。壁にぶち当たることもあった。コンビニ側からの強い要望を、開発部門を説得して作ってもらうのには骨が折れたようだ。それでも深山さんは、シニア社員がほとんどの開発部門を粘り強く口説いた。「諦めが悪いのが強みだ」と、社内ではいわれているという。この2年間を振り返って「社内外の信頼関係の積み重ねが大事だった」と振り返る。
方々を説得するために大事にしていることが、ストーリー作りだという。「こういう理由があるから作る必要があるのだ」という納得させるためのストーリーが求められているのだ。ただやみくもに「お願いします」というだけでは、相手は動いてくれない。
現在は50代と30代の社員を率いて、リテール部門のリーダーを任されている。ソニーセミコンダクタソリューションズでは、年齢が上の社員が部下になることはよくあることだという。できる社員は中途、若手に関係なく抜てきする。やらせてみて能力を伸ばそうという社風なのだ。
リテールのほか、物流、製造、シティの4分野でソリューションビジネスに取り組む。いずれも、センサーで集めた情報を基に、アドバイスするデータドリブンの手法を採用。いわゆる残業規制の「2024年問題」の解決を迫られている物流については三井倉庫とタッグを組む。同社の協力を得ながら、トラックのナンバープレート検知ができる物流倉庫での荷物積み下ろし場の作業効率を改善するサービスを開発。2023年11月からサービスを開始した。
このほかイタリアのローマ市からの要望に応えて市内のバス停と到着する乗客数をIMX500で検知。この情報を活用して、バスが満員の場合に降車する人がいない時は、バス停を通過するよう運転手に指示するなど円滑な運行を支える実証実験も実施された。
深山さんは、先のキャリアを見据えている。
「エッジと呼ばれる先端分野からクラウドまで幅広い知識を要求されますから、日々キャッチアップするのが大変です。自分が得意な分野を作り、それを少しずつ広げていくようにしています。将来は、日本のリテールで培ったノウハウを使ってグローバルビジネスを展開したい。特にリテールの先進国である米国で試してみたいと考えています」
数十年前は「テレビのソニー」と言われたソニーグループ。その後は音楽や映画などのコンテンツビジネスを手掛け、ゲーム事業でも成功。今や金融分野でも稼ぐ。
ここにきて半導体事業では、最先端のセンサーを使ったソリューションビジネスに本腰を入れた。若手人材を思い切って登用し、新領域を開拓。その経営姿勢が若手社員にとっても魅力を生み、やりがいを得られる職場にしている。
人手不足が深刻化している日本では、解決しなければならない問題は山積している。キーデバイスであるセンサーを使ったビジネスチャンスは無限大にあると言っても過言ではない。ソニーのソリューションビジネスは要注目だ。
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