前置きが長くなったが、中国がデジタル人民元を推進する狙いはどこにあるのだろうか。山岡さんは「人民元の国際的地位の向上」「中国のビッグテック企業へのけん制」「取引データの把握」の3つを指摘する。
国際通貨基金(IMF)は16年、人民元を米ドル、日本円、英ポンド、ユーロに次ぐ5番目の特別引出権(SDR)に採用した。中国は石油や銅、鉄、大豆などの一次産品を大量に輸入しており、世界最大の輸入国になっているものの、取引の決済手段はドルが主軸で、人民元はほとんど使われていないのが実情だ。
「諸外国が人民元を使ってくれるかどうかは、今後数十年間の中国の経済安全保障に大きな影響を与える。ドル建ての現状が続けば、人民元の価値が急落した際に大きなリスクを抱える。これは共産党政権の安定にも関わってくるため、中国としてはなるべく人民元建ての取引を増やしたい。人民元の国際的なプレゼンス向上の一環としてデジタル人民元も発行している」(山岡さん)
自国企業へのけん制という意味合いもある。米国のビッグテック企業群GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に対して、中国にも同様にBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれるグループが存在する。このうち、テンセントは「WeChat Pay」(ウィーチャットペイ)、アリババは「Alipay」(アリペイ)の決済サービスをそれぞれ運営しており、2サービスで中国国内のシェアが9割を超えている。
「中国共産党からすると、この2企業が国内に居座ってくれるのは、ある程度までは歓迎。ただ、これが中国共産党を超えるような力を持つことは歓迎しない。このため、これらの企業に対するデータの独占、インフラの独占をけん制したい意図がある」
実際、中国共産党は2企業に対し、独占禁止法の適用や持ち株会社への再編、海外での上場の差し止めなどを行い、けん制を強めているという。
中国は習近平政権発足後から、腐敗撲滅を掲げ、政府高官らの汚職摘発に熱心だ。脱税も大きな国内問題となっており、デジタル人民元推進で、国民の取引を把握したい意図もある。現金ではそれぞれの保有額の把握が難しいが、デジタル通貨であれば、保有額や取引内奥の把握が容易だからだ。
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