「アツギ」工場閉鎖で青森県むつ市は“困惑” ストッキング大手の低迷と、中国依存のリスク長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/6 ページ)

» 2022年02月25日 09時30分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

PSの着用機会が減少

 68年にはパンティー部とレッグ部が一体となったPSを日本で初めて発売。ストッキングがズレないようにガーターを着用する必要がない利便性の高さで、以降PSが主流となった。

 さらに、79年にはいわゆる「サポートタイプ」のフルサポーティPSを世界で初めて発売。大ヒットとなる。従来品は3〜4日着用すると弛んでしまう欠点があった。そこで、堀氏はもっと長く着用できる実用的な新しいPSの開発を、糸から行った。約4年の研究を経て、伸縮性のあるポリウレタン糸に、丈夫なナイロン糸をコイル状に巻きつけるカバリングヤーン方式に到達。光沢と、脚をほどよく引き締めるフィット感も、従来品にないものだった。

爆発的にヒットした、アツギのフルサポーティ。世界初のサポートタイプのPS(出所:アツギ公式通販Webサイト)

 グンゼ、福助などの競合メーカーも、程なく同タイプのPSを発売したが、アツギの先進性ははるか先を行っていた。99年には、厚木ナイロン工業が厚木ナイロン商事を吸収合併。現在のアツギに商号変更した。

 創業者の堀氏が亡くなってからのアツギは、停滞感が否めない。94年に世界初のヒップ立体成型PS「ミラキャラット」を発売。2004年に、光触媒技術を世界で初めてストッキングに応用し、光が当たると消臭効果があるという高機能商品を世に出すなど、ハイライトはあったが、低迷が続いている。

アスティーグ、11種類のラインアップ(出所:リリース)

 背景には何があるのか。バブル崩壊、ITバブル崩壊を経て、経費節減で会社の制服が減り、女性の通勤スタイルもカジュアル化。パンツルックも珍しくなくなり、PSの着用機会が減った。

 また、90年代のアムラーのようなギャル系ファッションは、生脚にルーズソックスを合わせるというソックスの需要増を生んだ。エステの発達もあって、ルーズソックスが廃れても女性が生脚で歩くことに抵抗感がなくなり、PSよりもソックスという風潮となったことなどが挙げられる。

 2012年頃から数年間、PSがやや巻き返した時期もあったが、再び低迷している。

アツギの直営店、アツギファクトリーストア有明ガーデン店(出所:リリース)

 アツギも時代の変化に対応し、スパッツやレギンスといったスポーツ用アイテムを強化するなど、応戦している。しかし、PSの需要減を埋め合わせるほどの爆発的ヒットにはなっていない。

 20年11月2日には「タイツの日」を記念して、アツギ公式Twitterアカウントが、ミニスカートと脚線美を強調した“萌(も)えセクシー”な雰囲気のイラストを発信。しかし、フェミニストから猛批判の対象となって炎上。謝罪して削除する事態にも追い込まれた。

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