花王製品を締め出したオーケー 値上げ宣言は「生意気」なのか?長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)

» 2022年03月09日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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値上げ宣言は「生意気」なのか

 花王の長谷部佳宏社長は、2月3日に開催した21年12月期決算発表会で、「戦略的値上げ」という言葉を使用。日用品の価格が上がらなくて当たり前といった商習慣を、リーディングカンパニーとして打破していくという決意を表明した。

 「生意気に聞こえてしまったのかもしれないが、原料高で食料品は値上げしているのに、日用品はどうして値上げしてはいけないのか」と花王・広報も困惑を隠せない。

花王の長谷部佳宏社長(出所:花王公式Webサイト)

 3月に入ってからオーケーの店に行くと「『味の素ピュアセレクト各種』について」と題した張り紙があった。「原材料価格高騰のため、2021年12月よりメーカーで値上げとなっておりましたが、当社は3月15日より値上げいたします」と説明していた。白抜きでタイトルの上に「値上げ前にお買い求めいただくことをおすすめします」と目立つように書かれていた。

味の素、ピュアセレクトは、オーケーでは3カ月遅れで3月12日に値上げ(出所:味の素公式Webサイト)

 要は3カ月間、原材料高騰で苦しむメーカーの利益を圧迫したが、安価に抑えて消費者のために戦ったと、オーケーは報告しているのである。

 しかし、結局は値上げを認めている。味の素に対する態度と、花王に対する態度に隔たりがあり、平等ではないように感じられた。花王・長谷部社長の言うところの「食料品は価格を上げられるが、日用品は上げられない商習慣」の存在を、オーケー自ら認めたに等しいのではないか。

味の素のマヨネーズの値上げは認めた

 花王の21年12月期連結決算は、売上高約1兆4188億円(前年同期比2.7%増)と増収だった。一方、外出を控える新しい生活様式の影響を受けた化粧品の不振もあって、コロナ禍前の19年12月期における売上高約1兆5022億円を回復していない。

 21年の営業利益は約1435億円で、前年同期より18.3%も減少している。つまり、原材料や物流の費用がかさんで、増収でも減益になる構造に陥っている。このまま続けていれば、今期も増収になったとしても利益はさらに減るのは確実。何らかの手を打たなくてはいけない。

 売り上げが上がっても、利益が下がり続ければ、従業員の給料もなかなか上げられなくなる。さらに下がればリストラも考えなければならない。設備投資や研究開発にも、資金がかけられなくなる。成長性が疑問視されると、株価も下がる。嬉々(きき)として値上げするのではない。

 オーケーのように、メーカーに制裁をかけて値上げをストップさせれば、商圏の消費者は喜び、オーケー自身の業績も上がるだろう。しかし、それは消費者受益をうたいながら、メーカーとその従業員を困らせ、自社が繁栄するビジネスモデルになっていないだろうか。

 オーケーの21年3月期決算は、売上高が約5090億円(前年同期比16.7%増)、営業利益約304億円(同32.8%増)と、大変立派な数値をたたき出している。

 「高品質・Everyday Low Price」の理念が顧客に厚く支持された結果だが、それがメーカーの利益を圧迫して生み出されたのであれば、モノづくりを軽視する姿勢は感心しない。

 そもそも低価格のものは、低品質が当たり前だ。その常識を覆し、良いものを安く提供するのが商売の基本。ところが、「良すぎるものが、安すぎる」はどこかに無理があると思われる。

 生活者は気づいてきている。オーケーの花王製品締め出しは、顧客離れの発端になりかねない。

競合他店より常に安く出す

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。


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