賞味期限を延長させたことのほかに、技術革新でいえば電子レンジ利用ができるようになったことも見逃せない。発売から35年目に当たる2003年、商品のフタを開け、箱ごとレンジで2分間温めるだけで完成するレンジ対応パウチを採用した。
湯せん対応のパウチはアルミ箔を使用していたため、電子レンジに入れると火花が出てしまい、使えなかった。パウチが爆発しないように、箱に空気を逃がすための穴をつくった。
社団法人中央調査社によると、日本の一般家庭の電子レンジ保有率は90年に70%、2000年以降は90%以上に。そういった背景を考慮しても、湯せんから電子レンジ対応への移行は時代の要請だった。
大塚食品の努力がなければ、今日、ここまでレトルト食品が浸透することはなかったかもしれない。つまり、特許を取得すれば、同社がこの技術を独占することもできたはずなのだ。
「レトルトカレーそのものが、明らかに利便性が高い商品でした。自社で独占せずに市場の活性化を優先させたと聞いています」(伊藤氏)
カレーの面白いところは、「国民食」という地位を確立しながらも形を変え、ブームを生み出し続ける点にあると思う。スープカレーにスパイスカレー、どろっとしたカレーなどその種類は多岐にわたる。
大塚食品も発売当初から、原材料の変更などさまざまなアレンジを加えてきた。プチ贅沢(ぜいたく)が味わえる「ボンカレーGRAN」(現在は販売を終了)や動物性原料を使用しない「ボンカレーベジ」など、多様化する消費者ニーズに合った商品を世に送り出している。
伊藤氏は「コロナ禍で生活様式が一変し、人々の価値観も大きく変わりました。どうしても家にこもりがちですが、そんな中でも食事を楽しんでほしいという思いで既存商品のリニューアルやサブブランドの立ち上げなどを進めています」という。
何度も技術革新を起こし、アップデートを繰り返してきたボンカレーだが、唯一変わっていないことがある。沖縄で販売されるボンカレーは昔ながらのパッケージを守り続けているのだ。パッケージだけでなく、味も1968年に発売した当時のままだという。
「沖縄の県民性が関係しています。ボンカレーの新商品も販売していますが、昔ながらのパッケージの方が売れるんです(笑)」
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