「そうだ! 今日の夕飯にこの前買った肉を使おう」
そう思って冷蔵庫をのぞいたら消費期限が切れていて、仕方なく処分した経験のある人はどれくらいいるだろうか。「生鮮食品の消費期限が7日間くらいあれば捨てずにすんだのに」――そんな日常の”もったいない”を減らす商品を開発している企業がある。三井・ダウ ポリケミカル(東京都港区)だ。
同社は、消費期限を延ばすことができる特殊なラップ「スキンパック」に使用される樹脂原料「ハイミラン」を販売している。一般的な生肉の消費期限を3日から13日に、生魚は2日から7日に延ばすことに成功したという。なぜ消費期限を延ばすことができるのか? どういう仕組みなのか? マーケティング部の森田涼子さんに話を聞いた。
そもそも、肉や魚などの生鮮食品の消費期限はどのように決められているのか? 答えは「菌の数」だという。
「包装時に肉や魚からドリップといわれる液体が出てきてしまいます。そこに雑菌が溜まっており、その雑菌の量が一定数を上回るタイミングを消費期限と定めています。
通常のラップは食材が空気に触れるたびに酸化が進み、菌が繁殖しやすいです。一般的な真空パックはパックする素材自体が硬いため、包装時に食材をつぶしてしまい、ドリップが出てしまいます。
ドリップをできるだけ出さずに真空状態を作ることで、菌の増殖スピードを抑え、消費期限も延ばすことができます。天候が悪いなどの理由で、一時的にスーパーから客足が遠のいたとしても、商品を廃棄せずにすみます」(森田さん)
なるほど。菌の増殖スピードを抑えることで、消費期限を引き延ばしているのか。なぜ通常のトレーラップだと消費期限が短く、スキンパックだと消費期限を4倍近く延ばすことができるのか? 最大の理由は”樹脂”にあるという。
スキンパックはハイミランというポリエチレンに分類される樹脂がもとになっている。通常、ポリエチレンは100度で熱すると溶けてしまうが、ハイミランは金属イオンを含んでいるため加熱しても溶けずに、やわらかいフィルムの形状を保つことができるという。
やわらかい状態で包装することで、対象物にピッタリと密着し、真空状態を作ることができるのだ。それにより、菌の増殖スピードを抑え、鮮度がいい状態を保てるという。
「やわらかいって言っても肉とか魚とかある程度弾力があって、形状が崩れにくいものしか難しいんじゃないの?」と思われるかもしれないが、あらゆるものをラップすることができるのがスキンパックの強みだ。
トゲが鋭い「ウニ」や少しの力でもつぶれてしまう「いくら」までもピタッと包装して真空状態を作ることができる。現在は冷凍食品にも使用シーンを広げている。冷凍時に発生する”霜”を抑えることができるため、水分量を保持できるだけでなく、見た目もおいしそうな状態を保てるという。
現在は、「ダイエー」「イオン」など大手スーパーマーケットで導入が進んでおり、フードロスなどのサステナブル文脈から今後も導入数が増えていくことが期待される。実際に2019年に販売を始めてから業績は右肩上がりだという。
大手スーパーの導入、製品力の強さ、サステナブルが追い風となり、市場で存在感を強めていきそうな気がするものの、意外な課題が残ると森田さんは顔をくもらせる。
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