大手スーパーなどでの導入が進む一方、森田さんは現状の課題について「消費者と店の理解」を挙げる。ダイエーでスキンパックを導入した際、同社のバイヤーや買い物客から「なんか、肉がいつもと違う色なのですが……」という問い合わせが多発したのだ。
「スキンパックで酸化を防がれたことで、必然的に肉の色が紫がかった色になってしまうんです。肉=赤色というイメージが根付いているため、色が違うことに不安を感じるお客さんがいらっしゃいました。お客さんに受け入れられないからという理由で導入を控えたいというスーパーも実際にありました」(森田さん)
いち早くスキンパックを導入したダイエーで「肉の色が違う」というクレームが聞かれなくなったのは導入から1年ほど経ったころだった。昨年から導入を始めたイオンリテールでは現在、社内での理解促進を進めている段階だという。
「どうしても”赤い肉”がいい。ということであれば肉に着色するなど方法はあると思います。ただ、無駄な工程、コストであることは間違いありません。消費者に受け入れられるように当社としても啓蒙活動に力を入れていきます」(森田さん)
「店の理解」とはどういう点が挙げられるのだろうか? まず超えなくてはいけないハードルが「コスト」だ。スキンパックの価格は、通常のトレーラップの3倍以上。加えて、装置の導入などの初期投資が発生する。ラップの”単価”だけで見ると、コスパが悪いという烙印を押されてしまうのだ。
しかし、商品の陳列頻度や値下げシールを貼る作業を減らせる点で、人件費削減や時間短縮につながり、結果的にコスト減も期待できる。また、スキンパックを使用することで消費期限を延ばすことができるため、フードロスを減らせることも大きなメリットになりうる。
農林水産省が20年10月に発表した調査によると、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど小売店での売れ残りや返品、飲食店での食べ残し、売り物にならない規格外品といった事業系食品ロスは328万トンに上るという結果が出ている。日本が年間で廃棄している612万トンの半分以上を占める計算だ。
しかし、消費期限が近い商品を値下げ販売するのが”当たり前”になっているスーパーでは、「値下げ品を待っている買い物客も一定数いる」(森田さん)のだ。スキンパックによって商品は「値下げしなくていい商品」に生まれ変わる。スーパーからしたら売り上げが増えるのでうれしいはずだが、今まで値下げが理由で購入されていた「ついで買い」が減り、必要分だけ購入する流れになっていく可能性がある。
「販売数が伸びていない=売り上げが伸びていない」と判断され、導入につながらないケースもあるという。売り上げが横ばいだとしても、廃棄コストや人件費削減から利益増につながる可能性は高い。しかし、首を横に振るスーパーがまだ多いのが現状だ。
「消費期限を延ばしたり、肉自体を殺菌する技術の採用を検討したりなど当社として取り組めることは積極的にチャレンジしていきたいと思っています」(森田さん)
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