焼き立てパンは置いていません! パン屋の”当たり前”をくつがえす「時をとめるベーカリー」は、なぜ生まれたのか?IT起業家がパン屋に(1/4 ページ)

» 2021年09月30日 10時40分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 パン屋の楽しみといえば、焼き立ての匂いが充満する空間で、おいしそうにテカテカと光るパンを選ぶことといっても過言ではないだろう。9月某日、ワクワクしながら横浜市にある瀬谷駅直結のパン屋に入店した。

瀬谷駅直結のパン屋「時をとめるベーカリー」(画像:ハットコネクト提供)

 ……あれ、焼き立てパンのいい匂いが鼻腔をくすぐって……こない? 店内を見渡しても店員らしき人はいるものの、肝心のパンが1つも見当たらない。あるのはゴウゴウと音をたてる大型の冷凍ケースだけ。

 もちろん入る店を間違えたわけではない。ケースの中を覗くと大量の冷凍パンが置かれていた。店の名前は「時をとめるベーカリー」。神奈川県や東京都のパン屋のパンを中心に大阪府やスペイン、ドイツなどの海外パンも仕入れて販売する「パンのセレクトショップ」だ。2021年9月にオープン。現在は、約50のパン屋と提携しており、陳列商品数は約450種類に上る。

大型の冷凍ケースが並ぶ

 桁違いの商品数を始め、この店はパン屋の「当たり前」が全く通用しないのが特徴だ。通常のパン屋のピークタイムは朝だが、こちらは昼と帰宅ラッシュの午後6時ごろで、むしろ朝の来店客は多くないという。また、どのパン屋でも取り扱っている食パンやバケットがほとんど置かれていない。お客さんの入りに合わせて続々と焼き立てが追加される通常のパン屋と異なり、在庫がなくなればその日に同じ商品が追加されることはない。そして、極めつきが冷凍パンだ。焼き立ては1つも売っていない。

 「パンは焼き立てがおいしいのに、そんなカチコチに冷凍したパンを買う人なんているの?」と思うかもしれないが、通常のパン屋と同等の客入りに加え、客単価は300円ほど高く、まだオープンして約1カ月だがかなり好調な滑り出しだという。

 冷凍パンを解凍すると、固くなったりパサついたりするイメージを持っていたが、実際に同店で販売するパンをオーブントースターで焼きなおしてみたところ、焼き立てのようなふんわりとした仕上がりになった。いったいどういう仕組みなのだろうか?

1番人気のピザ。冷凍状態(左)と解凍後(右)
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