その背景は、農協組織に求められている改革にある。地域の農協が自由な経済活動を行って、農業者の所得を向上させることを目的に、農協は効率化を進めて農業者向けのサービス向上を求められているのであり、事業採算、生産性の改善を実現したい思惑がある。農協はコメリ店舗に物販を委託することで、組合員へのサービスを維持しつつ、不採算店舗を閉鎖できるし、コメリは農協と協調関係を築きつつ物販に関わる需要を取り込める、というウィンウィンの取り組みなのである。
農林水産省の「令和元事業年度農業協同組合及び同連合会一斉調査結果」で農協の部門別損益を見ると、信用事業、共済事業という金融で収益を稼ぎ出しているが、物販などの経済事業の赤字がその半分くらいを食いつぶすという構造になっていると分かる。
コメリとの協業に踏み切った農協はまだわずかではあるのだが、こうした構造にあるということであれば、500以上もある農協がコメリとの協業に雪崩を打って参加する可能性もある。経済事業の購買品供給・取扱高が2兆4千億円程度ということを考えれば、コメリの潜在的成長余地がどれだけ大きいかが分かるだろう。
地方を基盤としている小売業のほとんどが、人口減少による需要の縮小におびえながら、生き残りの道を探している状況にある。なかでも地方、郊外の一戸建ての住生活需要を主なターゲットとするホームセンター業界は、その需要が急速に縮小していく時期が来ることは間違いない。
ホームセンター業界大手のDCMホールディングスは、生き残るために地方出身の有力ホームセンター企業が経営統合した組織であるが、生き残るために大都市マーケットを持っている島忠を仲間に入れようと考えた(その結果、ニトリとの争奪戦に敗れた)。これから地方を基盤とした小売業の前途はかなり多難なのである。しかし、彼らよりもっとローカルな地域に住み着いているコメリの前には、2兆円を超えるフロンティアが広がっている。その上、このフロンティアは競合ホームセンターが簡単に踏み込めないため、事実上、競争相手もいない。コメリは、将来的にホームセンターの覇者となるだけではなく、いずれは小売業界屈指の優良企業となれる可能性を持っている。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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