その場しのぎが相次ぐ東芝が発した断末魔 「再編案求む!」の衝撃売却・消滅も現実味を帯びてきた?(2/3 ページ)

» 2022年05月12日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 この時点で同社が市場の意見に従って上場廃止を選び、事業売却をはじめとした破綻処理的対応を含めた事業再構築により一からの出直しを図っていたなら、その後の東芝は今ほどひどい迷路に迷い込まなかったのではないかと思うのです。しかし、実際に東芝が選んだ策は、またも目先優先のその場しのぎでした。米ゴールドマンサックスに頼った投資ファンドからの資金調達という、禁断の果実を口にしてしまうことになるわけなのです。

 増資に応じた約60の投資ファンドには、複数のアクティビストが含まれていました。アクティビストたちの目的はただ一つ、投資でより大きなキャピタルゲインを得ることです。彼らの思惑通りに株価が上がってくれるなら、どこかのタイミングで売り抜いて去ってくれるわけですが、それがかなわないなら経営に対して株価を上げるべくさまざまな要求を突き付けてくるのが彼らの常とう手段です。

 しかし東証二部陥落で辛うじて上場廃止を免れた東芝の選択は、おざなりな長期戦略を掲げつつも銀行出身の車谷暢昭氏を迎え財務内容改善に重きを置いて東証一部復帰をめざすという、ここでも目先優先の策だったのです。

 結果、銀行家指揮の下では日本を代表する電機メーカーにふさわしい成長戦略など描けるはずもなく、株価は思うように伸びずアクティビストとの関係は悪化の一途をたどります。車谷東芝はトップ交代を求める姿勢を強める彼らとの対話を避け、自らの保身から株主総会での彼らの提案をしりぞける目的で経済産業省を動かし一部の株主の議決権行使に圧力をかけるという言語道断の愚行に出て、その関係は決定的な悪化に至りました。さらに車谷氏は自身の古巣である関係先ファンドを動かし、買収によるアクティビスト排除を企てたことで火に油を注ぐ形となって、トップの実質解任という最悪の事態を招いたのです。

 この窮地でまた東芝は「暫定」という名のさらなるその場しのぎで綱川智氏を再登板させ、今度は表向きアクティビストの意見を柔軟に聞き入れる姿勢に転じます。これによりアクティビストが推薦した4人を含む5人の社外取締役で構成された戦略委員会が組成され、委員会が提示した事業三分割案を経営が採択するという流れに。事業三分割の是非はともかく、半年に満たない議論では多角的な検討がされたとはとうてい思えず、素人目にも生煮え議論の域を出ていないと感じさせられたのは事実です。

 アクティビスト推薦の社外取締役を中心とした委員会の言いなりで事を進めるならば、アクティビストも文句をいうまいとでも考えたのでしょうか。しかし彼らは東芝が考えるほど甘くはなく、事業分割案に対しては企業価値毀損(きそん)を懸念する声や、「株式非公開化が検討されずに出された結論であり無意味だ」などの批判が相次ぎました。会社側は分割案を三分割から二分割に変更しつつ事業売却による株主還元を積み増す、ご機嫌うかがい的な「忖度(そんたく)」修正案を提示したものの批判をかわすことはできず、事業分割案は臨時株主総会でしりぞけられる憂き目に至りました。その場しのぎに明け暮れた東芝のこの1年は、無駄に時間を浪費しただけといえるでしょう。

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