変革の財務経理

なぜ? “お荷物部門”を潰したら、むしろ赤字に 致命的なミスを防ぐ「責任会計」とは管理会計Q&A(2/2 ページ)

» 2022年05月13日 11時00分 公開
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 (1)の会社全体の営業利益が赤字になってしまったのは、【図表2】で得られていた、売却前の部門a1の貢献利益13,000を失ってしまったからです。(2)の各部門の営業利益が悪化したのは、【図表2】で、売却前の部門a1に配賦されていた全社的管理部門の固定費50,000を、残された他の3つの部門で負担することになったからです。

 部門a1は、営業利益が赤字ではありましたが、全社的管理部門の費用を一部負担できる利益である貢献利益を生んでいたので、売却してはならないのです。

 以上をまとめると、配賦後の営業利益しか見ていないと、会社全体の営業利益を減らしかねない危険があるということになります。会社全体の営業利益が赤字にならないように配賦したはずなのに、おかしな話です。

 管理会計では、営業利益だけでなく、貢献利益の重要性をきちんと理解していないと、取り返しのつかない事態に陥ることがあるので、注意が必要なのです。

(3)共通費の配賦をしない責任会計

 現場部門の納得も得られない上に経営判断をゆがめやすい、配賦による管理会計に代えて、配賦をしない責任会計の考え方を取り入れて経営を行う企業が増えています。

 責任会計の仕組みを表すと、【図表4】のようになります。

photo 【図表4】クリックで拡大

 【図表4】の赤枠で分かることは以下です。

  • (1)全社的管理部門の費用が配賦されていません。
  • (2)部門別の営業利益はありません。
  • (3)管理の目は、自然と貢献利益に向くことになります。

 予算を策定する場合でも、貢献利益を中心として策定することになります。

 責任会計での予算策定では、各部門では、「全社的管理部門の費用を回収するための利益を上げる予算」を策定するのではありません。「会社として必要な利益を上げるために、各部がどれだけ頑張れるか」を見極めた予算を策定することになります。

 【図表4】の例では、会社の利益は、12,500上がります。しかし、営業利益率が1.25%で良いのでしょうか。赤字にならなければ良いのでしょうか。

 競合他社が10%の営業利益率だとすると、どんどん差をつけられて、競争に敗北することになりかねません。

 そうなると、予算を策定する際には、営業利益率を10%以上に設定しなければなりません。会社の営業利益は、100,000必要です。これを達成するために、各部門の貢献利益をどこまで高められるか、の議論を真剣にしていく必要があるのです。

 最も貢献利益が大きな部門b2でも、「もっと売り上げを拡大して、少ないリソースで生産性を上げて、利益を拡大できないか」という議論が必要になるかもしれません。

 つまり、最ももうかっている部門でも、安心してあぐらをかいていてはいけないということになります。「配賦後の営業利益が黒字ならそれでいいんだ」という経営ではダメなのです。

(4)責任会計導入のメリット

 配賦をしない責任会計を行うメリットは以下の通りです。

  • (1)自部門の費用だけが、自部門の費用として計上されるため、算出される「利益」は自部門での事業活動の実態を反映したものになり、経営判断をゆがめにくくなります。
  • (2)自部門の費用は全て、自部門で説明できるはずです。
  • (3)自部門の費用について、疑問や不満はなくなり、納得感が得られます。
  • (4)配賦のための煩雑な作業と、配賦の仕方に関する不透明感、さらには、配賦後の損益の原因分析の難しさがなくなることで、会社全体で無駄な作業や時間がなくなり、生産性が向上します。
  • (5)支出は、全社的管理部門も含めて、支生が発生した部門が全て責任を持つことになるので、無駄な費用の発生を抑えることができます。

 例えば、社内の管理部門にお願いすると、自部門への配賦率が上がってしまうので、安い外部のサービスを利用することが良くあります。

 会社全体としては、明らかにコスト増につながりますが、部門損益は良くなります。こんな無駄は、配賦をするから生まれるのです。

 配賦をやめれば、外部のサービスを使うよりは、社内の管理部門にお願いした方が損益は改善することに気が付くでしょう。

  • (6)自部門の費用が他の部門に配賦される、全社的管理部門などの部門では、配賦を前提とした配賦先の負担を考える必要がなくなるので、従来にはない「打ち手」のための戦略的な支出が検討できるようになります。

 全社的管理部門でも、自部門で発生した費用が、他の現場部門の損益を圧迫することは、重々承知しています。従って、会社全体を良くするための施策があることが分かっていても、思い切ったお金が使えません。

 例えば、本社人事部門において、環境の変化に対応するための人財教育にお金を使おうとすると、配賦をする管理会計では、それだけ各部門に配賦される費用が大きくなるので、あまり思い切った人事施策を企画することができません。これでは「人が命」の企業では、人的側面においても競争力が高められません。

 しかし、配賦されないとなると、思い切った人事施策を断行しやすくなります。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 今の日本企業では、配賦による管理会計が当たり前になっています。筆者は日本企業の競争力の低下の原因の一つが、配賦による管理会計にあると考えています。外資系の企業の財務経理関係者の話では、配賦はほとんど行っていないようです。

 そして、組織改革をしている日本企業でも、共通費の配賦を全面的に廃止する企業や、あるいは、現場部門の活動との関連性が低い共通費の配賦を廃止する企業も出てきています。

 管理会計には「これが正しいやり方だ」というものはありません。この連載を機会に、皆さんの会社の業績が最も良くなり、「競争に勝てる企業」になるための管理会計とは何かを、じっくり考えて欲しいと思います。

 4回にわたって、お届けした配賦に関連した内容は、今号で最終回になります。次回からは、「予算策定」に関連した内容を取り上げようと考えています。

著者紹介:中田 清穂(なかた せいほ)

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株式会社Dirbato(ディルバート)公認会計士

青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社を経て、株式会社ディーバを設立。連結経営システムDivaSystemを開発し事業を展開。導入実績400社を超えた、上場1年前に後進に譲り独立。

財務経理の現場と経営との関連にこだわり、課題を探求し、解決策を提示し続ける。財務経理向けにサービスを提供する業者へのコンサルティングも実施。

現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業責任者として活動中。

https://www.dirbato.co.jp/news/20210330.html


著者紹介:中司 年哉(なかつか としや)

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株式会社Dirbato(ディルバート)

コンサルティンググループ 財務経理DX事業統括責任者 シニアマネージャー CISA(公認情報システム監査人)CIA(公認内部監査人)CGEIT(公認ITガバナンス専門家)

パブリックセクター(地方公共団体、独立行政法人など)、金融/製造/サービス業を中心に事業継続計画(BCP)、システム監査、情報セキュリティ監査、認証局監査、内部監査体制構築支援、導入支援、内部統制構築支援、ISO(9001、20000、27011)認証取得支援などのプロジェクトに従事。そのほか、個人情報保護対策構築支援、脆弱性検査、調査研究などについても複数経験。現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業の統括責任者として事業企画、プロジェクト推進に携わる。

https://www.dirbato.co.jp/recruit/member/nakatsuka.html


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