令和3年(2021年)度の税制改正で、電子帳簿保存法が改正されました。税金関係の書類を、電子化して保存するための条件が大幅に緩和されました(詳細は別記事「令和3年度の電子帳簿保存法 「うちは関係ない」とは言えない、2つの注意点」をご覧ください)。しかし、具体的な法対応を進めると「分からない」「判断に迷う」という声もチラホラ。本連載では、公認会計士の中田清穂氏がそうした疑問にQ&A形式でお答えします。
Q 2022年1月から大幅に改正された電子帳簿保存法が強制適用になりました。2年間は「やむを得ない理由」で対応できない企業だけは大目に見てもらえることになり、中小企業には対応する余裕が生まれていると理解しています。
しかし、23年の年末までに、何をどこまで対応すればよいのか分からず、手が付けられません。最低限の対応から、推奨される対応までを教えてください。
A 改正電子帳簿保存法への対応は、全くシステムの導入が必要ない方法から、複数のシステムを導入することで効率化を図り、人手や工数を増やさないで対応する方法まで、いろいろあります。
以下、システムを導入する程度の低いものから解説していきます。
取引先からの電子メールの添付ファイル(エビデンスのPDFファイル)や、EDIシステムで受け取ったデータは、電子帳簿保存法では「電子取引」に該当します。
改正前は、このような電子取引によって入手したエビデンスを紙で出力して保存することが認められていました。しかし改正後は、紙での保存が認められなくなりました(参考:「いまさら聞けない電子帳簿保存法 令和3年度の電子帳簿保存法 『うちは関係ない』とは言えない、2つの注意点」)
ただし、やむを得ない事情があると所轄の税務署長が認めたら大目に見てもらえます。大目に見てもらえるのは23年12月31日までです(参考:「『2年間の猶予』『延期』の誤解 見落としがちな条件とは?」)
従って、大目に見てもらえる中小企業などでも、「全くシステム対応しない方法」を採ったとしても、23年12月末までには、電子取引で入手したエビデンスは、電子的に保存できるようにしておかなければなりません。
システムを導入しないとなると、以下の対応が必要です。
事務処理規定のひな型は国税庁のWebサイトに掲載されていますので、参考にしてください。個人事業主用の例は、A4一枚のボリュームです。法人用は、A4で2枚半のボリュームです。
・取引年月日その他の「日付」「取引金額」および「取引先」を検索の条件として設定できること。
「この日の請求書を全部見せてください」「この取引先の領収書を全部見せてください」などといわれたときに、検索機能を使って速やかに見せられるようにしなければいけません。
・「日付」または「金額」に関わる記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること。
「4〜6月までの請求書を全部見せてください」「30万円以上の領収書を全部見せてください」などといわれたときに、検索機能を使って速やかに見せられるようにしなければいけません。
・以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること。
「4〜6月までで、30万円以上の、A社の請求書を見せてください」などといわれたときに、検索機能を使って速やかに見せられるようにしなければいけません。
(参考:「Amazonの領収書を『プリントアウトして保存』はNG?」)
(B)の検索要件を満たすように電子的に保存することは、いわゆる文書管理システムを導入すれば、難なくクリアできますが、全くシステムを導入しないとなると、Microsoft社のWindowsに付属しているエクスプローラーなどの「ファイルやフォルダを管理するツール」(以下、ファイル管理ツール)に、保存することになると思います。
しかしファイル管理ツールだけでは、上記(B)の検索要件を満たすことは非常に困難です。
従って、エビデンスをメールで入手したり、Webサイトからダウンロードしたりして入手するたびに、「索引簿」に入力して、税務調査などで求められたときに、上記(B)の検索条件で円滑に検索して提示できるようにします。
索引簿は、Microsoft社のExcelなどの表計算ソフトを使えば、新しく文書管理システムなどを導入しなくても対応できるでしょう。索引簿のひな型も国税庁のWebサイトに掲載されていますので、参考にしてください。
システムを導入しなくても(1)の対応方法で、電子帳簿保存法への最低限の対応はできることになります。
しかし、フォルダに格納したエビデンスのファイルについて、削除しない原則を「事務処理規定」で社内的に規定したとしても、「うっかりミス」などで消してしまうリスクがあります。
「うっかり」だろうが「証拠隠し」だろうが、エビデンスがなくなったことは事実ですし、電子帳簿保存法に対応していないと判断されかねません。
エビデンスの改ざんなどによる不正計算は、これまでも35%の重加算税が課せられていましたが、今後は合計45%の重加算税が課せられることになります。
従って、エビデンスのファイルをうっかり削除できないようにするために、しっかりとしたシステムを導入することは、意味のあることだと思います。
エビデンスなどの電子文書を管理するのが「文書管理システム」です。最近の文書管理システムは、クラウドで提供されているものも多くあり、月額料金も、数千〜数万円で利用できるものがあります。毎月どのくらいのエビデンスを電子的に入手しているのか、その件数に応じて、適切な文書管理システムを検討すると良いでしょう。
また、すでに利用されている会計システムや経費精算システムにも、エビデンスを保存できるものがあります。従って、皆さんが利用しているシステムに、検索要件を満たすようにエビデンス・ファイルを格納できる機能がないか、確認することをおすすめします。
なお、文書管理システムについては、タイムスタンプを付与できるものと付与できないものがあります。
内部統制の証拠力を上げるために、エビデンス・ファイルにタイムスタンプを付与する必要のある企業では、検討対象の文書管理システムにタイムスタンプ機能があるかどうかは確認しておくと良いでしょう。
(1)のように全くシステム対応をしない場合でも、検索要件を満たすために索引簿を作成する必要がありました。エビデンスが添付されたメールが来るたびに、フォルダに格納して、日付、金額、取引先、エビデンスの種類(請求書か領収書かなど)を入力しなければなりません。
また(2)で文書管理システムを導入する場合でも、検索要件を満たすために、日付、金額、取引先などを入力しなければなりません。
いずれも、エビデンスを電子的に入手することが少なければ問題なく対応できますが、電子的に入手することが多い場合には、とても煩雑で現実的ではないでしょう。
電子帳簿保存法に対応したいけれども、検索要件を満たすための手間を考えると、なかなか前向きになれない企業が多いのも、ここに原因があるように思います。
この課題を解決する一つの手段がRPA(Robotic Process Automation)とOCR(Optical Character Recognition、光学的文字認識)の組み合わせです。
今回のように、エビデンスのPDFファイルがメールに添付されてくると、そのメールを、RPA用に設定したメールアドレスに転送するだけで、RPAが以下の作業を、人間に変わって実施してくれます。
もちろん、OCRの読み取り精度は完璧ではなく、間違った文字に変換することがあります。最近のOCRツールは、手書きであっても識字率が90%以上になり、かなり実用的になったとはいえ、間違いがあることは事実です。
しかし「100%でないから使わない」となると、いつまでたっても、最新の技術を利用できるようにはならないので、そろそろ使い始めても良いと思います。
また、一部間違った文字に変換されたものについてだけは、【4】のあとに人間が訂正すれば良いのです。エビデンスの中身の修正ではないので問題はありません。
【1】〜【4】を全件、人間が行うのと比べると、圧倒的に人間の工数を減らせることができると思います。
RPAやOCRを導入するとなると、もちろんコストが掛かります。しかし、これらも最近はクラウドで提供されているものが多いので、両方を合わせても月額10万円以内で利用できるサービスも出てきました。
改正電子帳簿保存法への対応は、企業によっていろいろな方法があるでしょう。
しかし、今後企業間のエビデンスが電子的にやりとりされることが、増えることはあっても減ることはないと予想されますので、「ITに疎い」企業でも、しっかりした安価なクラウドサービスを利用し始めることは、意味のあることだと思います。
株式会社Dirbato(ディルバート)公認会計士
青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社を経て、株式会社ディーバを設立。連結経営システムDivaSystemを開発し事業を展開。導入実績400社を超えた、上場1年前に後進に譲り独立。
財務経理の現場と経営との関連にこだわり、課題を探求し、解決策を提示し続ける。財務経理向けにサービスを提供する業者へのコンサルティングも実施。
現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業責任者として活動中。
https://www.dirbato.co.jp/news/20210330.html
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