「残業ゼロでいいなら入社したい」 優秀な新卒の“残業免除”は不公平か?Q&A 総務人事の相談所(2/2 ページ)

» 2022年05月16日 08時00分 公開
前のページへ 1|2       

「平日は残業できないけど、入社したい」 実際の事例、どう対応した?

 A社が採用した大卒の新入社員から、採用時に「趣味で音楽活動をやっているので、平日の残業はできない。それでも働けるのであれば入社したい」という具体的な要望がありました。会社の実態からすると、残業ゼロは到底難しい状況。しかし、将来の成長に対して期待の持てる学生であったことから、同条件を基本的に受け入れた上で採用に至りました。

 従来であれば当然、「残業ができないのであれば採用しない(とは直接的に言いませんが)」という選択肢もあるものの、若手人材の採用(特に優秀者な人材)が困難な時代において、新卒社員の確保のためにやむを得ないとの判断がありました。

残業はできないが、入社はしたい

 さて、A社では件の新入社員が入社した後、同社の新しい人事制度の枠組みとして「残業無しコース」を採用しました。

 管理職を除いて、社員は誰でも当該コースを申請でき、会社から承認されれば「残業無し」対象として認定されます。また、原則1年に1回コース変更の申請も可能としました。

 とはいえ、残業無しコースに希望者が殺到してしまっては組織運営に支障をきたしますし、「残業の有り無し」だけで他の処遇の条件が全く変わらないとなると、当然ながら残業有り社員から不満が出ることが予想されます。そのため、残業無しコースの社員については勤務できる部署や職種を限定したり(社内の構造上、どうしても残業が必要になる部署・職種での勤務は不可能とする)、賃金・評価などの処遇面でも、残業有り社員との間に一定の差を設けたりなど、さまざまな制度上の工夫を施しました。 

 改めて、A社での取組みのポイントは、「残業無し」の働き方を公式に「制度化」したことにあります。中小企業では比較的よく聞く話ですが、個別の対応では「残業する側」と「残業しない側(できない側)」の間でどうしても衝突や摩擦が起こりやすいです。管理者サイドとしては「残業しない側(できない側)」に対してできる限り配慮をするものの、「残業する側」からはどうしても不満が出るし、現場のマネジメントも容易ではありません。

 この点、A社の発想としては、であるならば最初から人事制度上で明確になっているほうが本人も現場側も対応しやすいであろう(この人は残業しない働き方のコースの人であると周知されていれば、それを前提に管理者はオペレーションを組むようになるし、オフィシャルな制度を利用しているのだから、利用者も変に気兼ねしなくて済む)ということです。

 とは言え、現実的には問題も発生します(時に「残業できる/できない」の違いによる人間関係の摩擦も無くはない)。より良い形で制度が運用できるよう、A社では人事制度の変更を機に、残業無しコースの社員がいることを前提としながら、その中での働き方改革(いろいろな働き方の社員がいる中で柔軟に仕事が回せるようにオペレーションを組み直す)を継続して推進するなど、改善を続けています。

著者紹介:森中謙介(もりなか・けんすけ)

photo

 (株)新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント。中堅・中小企業への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に活躍。各社の実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。近年では、シニア社員活用に向けた人事制度改定の支援に多く携わっている。「定年再雇用・定年延長制度コンサルティング」に関する問い合わせはこちらまで。

 また、書籍やセミナー等を通じた対外的な発信も積極的に行っており、著書に『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規)、『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社)、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版)、『社内評価の強化書』(三笠書房) がある。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.