変革の財務経理

免税事業者に「値下げ」を要求したら、買いたたき? 「合理的な理由」の条件は? インボイス制度Q&Aインボイス制度Q&A

» 2022年06月02日 07時00分 公開
[村井隆紘ITmedia]

この記事について

2023年10月から適用されるインボイス制度。これに伴い、仕入先である免税事業者との取引条件を見直したい事業者もいるかもしれません。しかし「合理的な理由」なく値下げを要求すると、買いたたきと見なされる場合もあるようです。合理的な理由とは何でしょうか。解説は、税理士法人クラウドフォーカス代表の村井隆紘氏。

Q 免税事業者に値下げを要求したら、買いたたきになるのでしょうか。

A 結論から申し上げますと、買いたたきと見なされる可能性が高いです。

解説:「合理的な理由」がある場合は?

 減額や「買いたたき」行為を禁止した消費税転嫁対策特別措置法は令和3年(2021年)3月31日で失効しましたが、失効後も優越的な立場にある事業者(買い手)が取引先(売り手)に対して、消費税の全部または一部の負担をさせるために値下げを要求する行為は、独占禁止法に違反する恐れがあります。

 また、買い手と売り手の取引内容が下請法に定める親事業者と下請事業者にあたる場合には、「合理的な理由なく」消費税を上乗せせず対価を定めたりする行為は「買いたたき」に該当し、下請法に違反する恐れがあります。

 値下げの要求にあたって、売り手側との合意書が交わされている場合もやはり注意が必要です。たとえ合意書が交わされていたとしても、売り手側が今後の取引に与える影響を懸念して値下げに応じた場合は、「合理的な理由」があるとは見なされず、買いたたきに該当します。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 一方で公正取引委員会のQ&Aにて「合理的な理由」があるとして認められている例示は以下の通りです。

(例)値下げにあわせて取引量を増やす場合

  • (1)特定供給事業者(売り手)にも客観的にコスト削減効果が生じていること
  • (2)コスト削減効果を対価に反映させるものであること(コスト削減効果を超えて値下げしていないこと)
  • (3)当事者間の自由な価格交渉の結果であること(十分な協議の上で,売手である特定供給事業者が納得して合意していること)

 特に(1)において値下げに応じることにより売り手側に明確なメリットが生じている点、(2)において値下げすることによるデメリットが(1)のメリットを上回らない点、という2点が重視されています。単に取引量を増やすので値下げに応じてほしいというだけでは「合理的な理由」とはならず「買いたたき」にあたる可能性が高いため、十分な配慮が必要です。

 消費税の免税事業者は、基準期間(原則は2期前)の課税売上高が1000万円以下の事業者です。今回のインボイス制度の導入にあたっては課税事業者が発行する適格請求書(インボイス)がなければ、受け取った消費税から支払った消費税を差し引く「仕入税額控除」ができません。従って、適格請求書(インボイス)を発行する課税事業者との取引と、免税事業者との取引ですと次のような違いが出てきます。

(例)30万円(税別)の商品を仕入れ、50万円(税別)で販売した場合

A.適格請求書(インボイス)を発行する課税事業者との取引

 仕入時:30万円(商品代金)+3万円(消費税)=33万円

 売上時:50万円(商品代金)+5万円(消費税)=55万円

 納める消費税:5万円(受け取った消費税)−3万円=2万円

 利益:55万円−33万円−2万円=20万円

B.免税事業者との取引

 仕入時:30万円(商品代金)+3万円(消費税)=33万円

 売上時:50万円(商品代金)+5万円(消費税)=55万円

 納める消費税:5万円(受け取った消費税)−0万円=5万円

 利益:55万円−33万円−5万円=17万円


 このように全く同じ金額の取引でも課税事業者か、免税事業者かとの取引で納める消費税額が大きく異なってきます(2029年9月までは猶予期間があるため、少々計算は異なってきます)。

 課税事業者としては免税事業者に支払った消費税は納めるときに差し引けないことから、免税事業者との取引を停止したい、または値下げを要求したいというケースも出てくるかと思います。しかし、先にも申し上げた通り、免税事業者は基準期間の課税売上高が1000万円以下という小規模な事業者であることから、課税売上高が同期間の1000万円を超える課税事業者は比較的優位の立場になることが多く、値下げを要求したりする行為は、取引の立場上、独占禁止法や下請法の制限を受けることになります。

 もし取引を見直したい場合も、(1)相手側にもメリットがある提案か、(2)十分な協議を行っており、優越的な立場を利用した押しつけの提案になっていないかの2点を特に注意し、慎重な判断を行ったほうが良いでしょう。

著者紹介:村井隆紘

税理士法人クラウドフォーカス代表税理士/株式会社クラウドパートナーズ代表取締役

公認会計士・米国公認会計士・税理士として、大手監査法人、大手金融機関に勤務後、クラウド会計を専門とする会計事務所「ユアクラウド会計事務所」を創業。現在は、税理士法人クラウドフォー代表として中小法人のクラウド会計導入やDXを推進するとともに、株式会社クラウドパートナーズの代表として、専門職な新しい自由な働き方を提案する会計事務所専門の転職サービス「ユアキャリア」を展開している。

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