ただし一つだけ決して忘れてならないのは、出社であれ在宅であれ、働いているのは「人」だという当たり前のことです。
社会的動物である「私」たちは、フェース・トゥ・フェースでコミュニケーションをとり、他者とつながることで生き残ってきました。
フェース・トゥ・フェースとリモートとでは、情報量が圧倒的に違います。ただ単に、相手の顔が見えるだけでなく、声のトーン、相手の匂い、そこの空気感、周りの状況、例えば誰かが近くにいるとか、川があるとか、さまざまな状況が絡んでいます。言葉はコミュニケーションの一部でしかなく、相手と自分の関係、その場の状況を五感をフル稼働してさまざまな情報の交換が行われているため、言葉の意味も変わります。
しかし、リモートだと、「言葉」の情報がものすごい比重をしめるようになる。それは言葉が持つ力の肥大化であり、言葉によって傷ついたりする人も増えるようになってしまうリスクがある。
さらに、フェース・トゥ・フェースだと、たわいもない言葉が相手の表情やその場の空気、状況により温かさが増し、相手とのちょっとしたやりとりに救われたり。自分を取り囲こむ“半径3メートルの世界”の人との関わりがあるからこそ、勇気が出たり、「もうひとふんばりしよう」とモチベーションが高まったり、小さな幸せを感じ取ることが可能です。
そういった顔の見える、「ねえねえ」と話しかける関係性をリモートで作るのは、至難の業。頭ではつながったと感じても、心はつながったと感じ取ることができません。それは孤独感につながっていきます。
実際、リモート営業が一般化したことで、孤独を感じる営業職の人が増えたとの調査結果もある。名刺交換したり、握手したり、一緒にコーヒーを飲んだりすることがなくなり、相手に感情移入できなくなり、うまくいかない営業活動をねぎらってくれる同僚もいないため、人間らしさの極みだった営業という仕事が孤独な業務になり、精神的疲労を訴える人が増えたとされています。
これからの会社に必要なのは「つながりへの投資」です。在宅を基本とするなら、なおさらのこと。社員が「孤独」にならないための知恵を最大限に生かす必要があります。
そして、もう一つ。気が乗らない日でも会社にいけば、仕事スイッチがオンになり、親のことや子供のことなど、家庭の問題を忘れる貴重な“逃げ場”にもなります。
そうした「場=会社」が持つ力も大切にしてほしいです。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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