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なぜ今「eKYC」が求められているのか? 「面倒くさい」決済を解消する?eKYCのいま(2/2 ページ)

» 2022年07月13日 07時00分 公開
[ITmedia]
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 日本では「本人確認」と訳されるものの、KYCを直訳すれば「あなたの顧客を知れ」という意味になる。これは金融機関に対して投げかけられている言葉で、要は「あなたが提供している金融サービスを利用する、あるいは利用しようとしている顧客をきちんと把握しなさい」ということだ。

 実際に世界各国で、金融機関に対してKYCを求める法規制が存在しており、日本では「犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)」に基づいて、各種金融機関やカジノ事業者などに対し、本人確認と本人確認記録の作成・保存を行うことが求められている。それにより対象となる企業は、自社のサービスを利用者に対して、運転免許証やパスポートなどの提示を求めるといった対応を行っている。

 なぜそのような対応を命じられるのかといえば、前述のように、犯罪に利用されないためというのが大きな理由だ。一方でKYCによって顧客を知ることで、その人物がどのくらいの金融サービスを利用できるか(例えばお金を貸してもきちんと返してくれそうか)を把握することも可能になる。その意味で、KYCは金融機関にとってもメリットのあるものだ。

なぜ今eKYCなのか?

 さて、こうしたKYCを電子的に行うのが「eKYC」ということになる。なぜ既にKYCの手段が存在しているのに電子化を進めるのか。それは当然ながら、利便性を高めるためだ。

 いま、金融機関で口座を開設するとしよう。これまではその金融機関が開設している物理店舗に出向くなどして、免許証など自分の身元を証明できる書類を提示する必要があった。それでは時間がかかるし、金融機関の店舗が開いている時間帯に、自分の都合をつけて訪問しなければならない。

 そこで一部の金融機関で採用されるようになっているのが、スマートフォンで本人確認用書類を撮影してもらい、そのデータを送信してもらうことでKYCを行うというものだ。例えばメルカリの決済サービス「メルペイ」では、サービスへの申し込みの際、「アプリでかんたん本人確認」という手段を用意している。これは指定された方法で本人の顔と確認用書類を撮影すると、その場で申請が行えるというものだ。

 また2021年3月には、マイナンバーカードのJPKIを利用した本人確認方法が追加された。スマートフォンのNFC機能でマイナンバーカードを読み取るだけで、リアルタイムで確認が完了する。これはマイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用した方式で、マイナンバーカードのICチップに格納されている署名用電子証明書をもとにeKYCを行っている。

 なぜこうしたeKYCの取り組みが進んでいるのか。最大の理由は、18年11月に金融庁が犯罪収益移転防止法に対して行った「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加」である。これにより、次のような手法もKYCとして認められることになった。

  • 1.本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信(6条1項1号ホ)
  • 2.ICチップ情報+顧客の容貌の画像送信(6条1項1号ヘ)
  • 3.銀行等への照会(6条1項1号ト(1))
  • 4.顧客名義口座への少額振込(6条1項1号ト(2))

photo オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加(金融庁公開資料より)

 またeKYCに関係する技術的・環境的要因の変化も大きい。先ほどのメルペイの本人確認事例は、スマートフォンのNFCという技術面と、マイナンバーカード(およびそれに関連する各種情報インフラ)の整備・普及という環境面が組み合わさって可能になったものだ。

 総務省のWebサイトによれば、マイナンバーカードの普及率は2022年6月時点で44.7%とまだ5割を超えていないが、既にパスポートの発行枚数を超えている。これからさらに普及すれば、同様のeKYCを導入する企業が増えるだろう。あるいは今後の技術の進化によって、全く新しいeKYC手法も登場してくるかもしれない。

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