東電元役員「13兆円」賠償判決、実効性はほとんどなし?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2022年07月15日 08時15分 公開
[古田拓也ITmedia]
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日本で大企業の役員になるべきではない?

 このように考えると、欧米諸国の大企業で役員報酬が高額であることにもうなずけるではないだろうか。日本では一般的に年間1億円の役員報酬を超えると「かなり高い」部類に入ってくる。

 現に、日本で高額の役員報酬を得ている経営陣の多くは、海外出身のプロ経営者だ。そして日本人で高額の役員報酬を得ている経営陣の多くは、創業者やオーナーだ。

 一方で、サラリーマンあがりの社長がトップを務めることの多い日本の大企業で、年間1億円を超える役員報酬をもらえることは珍しい。

 事故発生前における東電経営陣の年収をみると、社長でたった年収7200万円だった。ここから所得税や住民税などを控除すると手取りベースで4000万円程度しかもらえていない。手取りベースで4000万円であれば、小規模の個人事業主はもとより、今ではYouTuberやTikTokerの有名人でも獲得できるレベルの金額感である。

「人智を尽くした事前の備えによって防ぐべき事故を防げなかった」と事故を総括する東京電力ホールディングス(同社Webページより)

 このように考えると、毎年の役員報酬は数千万円であるにもかかわらず、常に数百億〜十数兆円といった株主代表訴訟のリスクと隣り合わせとなる、社会的影響力の大きい日本の大企業で役員に就任することはやや「馬鹿らしい」と思う者も出てくるのではないか。

 従来は「粉飾決算」や「違法な利益供与」といった、経営陣の積極的な違法行為について株主代表訴訟が提起されることが多かった。しかし、今回の事例は意図的に原発事故を引き起こしたというよりは、致命的な判断ミスが原因である。そして、天災由来の事故であったことも踏まえれば、同情の余地が全くゼロであるとまでは言い切れない側面もあるだろう。

 このように考えると、どれだけ業績を拡大させても低廉な役員報酬に抑えられているにもかかわらず、損失発生時には天文学的な個人賠償を求められる日本の大企業の役員に就任することは、優秀な経営レベルの人材にとって非合理的な選択になる恐れもある。今後は、業績連動報酬や株式報酬の割合を増やすといった、リスク/リワードの非均衡を是正していくことも、優秀な経営者のなり手流出を防ぐために必要となってくるのではないだろうか。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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