「中小企業淘汰論」はなぜ“炎上”しにくくなったのか 日本に残された時間スピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2022年07月19日 10時40分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本は「逆走」

 先進国の中には日本よりはるかに高い消費税を導入しているにもかかわらず、着々と賃上げをして、経済成長を果たしている国も少なくない。貧困層や零細企業を助けるために期限を区切って減税をすることはあるが、消費税によって一国の経済がめちゃくちゃになるというような発想はない。

 消費税を廃止するとか安くしても、消費そのものが弱ければなんの意味もない。だから、世界では消費税という上っ面な問題ではなく、賃金を着々と上げて、消費を冷やさないことの方に注力を入れるのだ。

 しかし、日本はこの「逆」を突っ走っている。中小企業が潰れるので賃金はなるべく低く抑えたまま、消費税をゼロにしろと言っている。この世界的なインフレの中で、庶民が低賃金のままで消費もへったくれもない。

 ちょっと冷静に考えればおかしいことはすぐに分かるが、「賃金をなるべく上げない」をすべての思考の基準になっているので、「消費税廃止」で一発逆転できるという科学的根拠ゼロの話に飛びついてしまっている。

負債総額の推移(出典:帝国データバンク)

 ちなみに、これは日本人の典型的な「負けパターン」だ。太平洋戦争のときも、「とにかく国体維持のために日本は降伏できない」がすべての思考の基準となってしまったので、「神風特攻」や「戦艦大和」で一気に戦局を逆転できるという科学的根拠ゼロの話に多くの人が飛びついたが、まったく同じ構造だ。

 このような日本のシビアな現実が、この3年弱の間、次々とわれわれに突きつけられたことで、「中小企業を守れば日本経済は安泰」という「常識」に、「なんかおかしくない?」と懐疑的な人が増えているのではないか。

 それが今回の櫻田代表幹事の「中小企業を減らすべき」発言が、3年前ほど炎上したなかった最大の理由なのではないか。

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