実は“看板倒れ”でない東証の市場再編フィデリティ・グローバル・ビュー(1/5 ページ)

» 2022年08月08日 08時35分 公開
[井川 智洋フィデリティ投信]
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 東京証券取引所の市場区分が、2022年4月4日をもって「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」へと再編されました。21年9月から12月にかけて行われた上場会社による申請に基づき市場区分が決定されましたが、最も投資家から注目を集めたプライム市場の社数1839社(22年4月4日時点)は、その前日時点の東証1部企業数2177社に対して若干の減少にとどまりました。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

“看板倒れ”とは言えない東証の市場改革

 プライム市場の社数は、東証1部からある程度絞り込まれることが事前に予想されていました。というのも、東証はプライム市場の基準として、流通株式時価総額などの定量的な基準に加えて、グローバルな投資家向けの市場として質的な側面から「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」を基準として設けると公表していたからです。

 実際には、こうした質的な基準でプライム市場の上場審査に落ちた企業は皆無と見られます。また、定量的な基準に満たない企業についても、経過措置として適合計画書を提出することでプライム市場への上場が認められた企業が295社にも上りました。こうしたことから、4つの市場区分を3つに再編・統合するという東証の市場構造改革は“看板倒れ”に終わった、と国内外で大きな失望をもって受け入れられました。

 一方、筆者(井川智洋 フィデリティ投信ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャー)は投資先企業との企業価値向上に向けた対話業務に従事していますが、こうした個々の投資先企業との対話の現場では、“看板倒れ”とは異なる印象を受けることもあります。

 例を挙げると、あるベンチャー企業とは、プライム市場上場・グローバル投資家が求める企業価値向上への取り組みに向けて、取締役の指名や報酬決定プロセス改善を通じた取締役会の経営監督機能の向上、企業活動へ重要な影響を及ぼす社会課題の特定と対応について議論しました。その後、日を置くことなく同社からは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同表明、独立した指名委員会・報酬委員会の設置が発表されました。

 また、グローバル大手B to B企業との対話では、取締役の指名や報酬決定プロセスの改善、ビジネスモデルを通じた社会課題への貢献に関する開示の必要性などを説きました。その後同社とはメールも含めて数十回に及ぶやり取りが行われ、その結果、当該企業が外部ESG評価機関から格上げされるなど、資本市場での評価向上にもつながっています。

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