西九州新幹線に乗ろう! 新鳥栖〜武雄温泉間のフル規格新幹線はなくてもいいから杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2022年09月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス

 しかし、自分ごととして長崎観光を考えた場合、長崎空港ベースで問題ないし、西九州新幹線のおかげで「武雄温泉」という宿泊オプションがついた。長崎〜武雄温泉間は66キロ、約30分。これは新宿〜箱根湯本間88.6キロより短い距離、大阪(梅田)〜有馬温泉より短い所要時間だ。武雄温泉、嬉野温泉はもはや「長崎圏」だ。

 西九州新幹線は福岡県と長崎県の需要が大きいだろうから、両県は佐賀県内のフル規格を実現してほしいだろう。しかし、長崎空港を利用する三大都市圏の観光客にとっては「どうでもいい区間」だ。いままで佐賀県内もフル規格にしたほうがいいなんて、出過ぎたことを言ってゴメンナサイ。三大都市圏の観光客にとって、佐賀県内フル規格新幹線はいらない。だから長崎県も焦らないでいい。三大都市圏の観光客を増やしたけれは、フル規格新幹線全通より、長崎空港発着便の増便を働きかけるべきだ。

 ただし、もし、佐賀駅を通るフル規格新幹線が全通したらどうだろう。京阪神から長崎へ向かう観光客が新幹線を選び、佐賀県に立ち寄るかもしれない。もちろん佐賀県を目的地にする場合もある。私も不便な長崎空港を使うくらいなら、航空運賃が安い福岡空港便を使って新幹線で長崎へ行き、佐賀市に寄ってみようかなという気持ちになる。

 佐賀市は大隈重信、鍋島直正、江藤新平など幕末から明治にかけての偉人の出身地。ゆかりの場所がいくつもある。特に佐野常民は鉄道ファンなら詣でるべきだろう。佐賀藩時代に日本初の蒸気機関車をつくり、日本赤十字社を立ち上げた人物だ。景勝地としてはラムサール条約湿地に登録された「東よか干潟」。伝統工芸として鍋島緞通など見どころは多いし、佐賀県立博物館、佐賀県立美術館は常設展無料で楽しめる。

 結論として、佐賀県がいらないというフル規格新幹線を押しつける必要はない。佐賀県が自らの魅力に気付き、長崎と同等かそれ以上の価値があると発信して「もっと全国から観光客に来てほしい、つきましては新幹線をフル規格で建設してほしい」というまでは、このままで差し支えない。切実に新幹線を欲している四国にリソースを割くべきだ。

 国も長崎県もJR九州も、焦る必要はない。

 鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス。というスタンスでいい。

 そんなわけで、乗り鉄のみなさんは西九州ルート全線開業を待たずに、西九州新幹線に乗りに行きましょう。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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