先進国では、安全は極めて大事であり、利便性よりも明らかに優先される。トラックの荷台にベンチを設置してバス代りなどに使うのは法律が許さない。けれども新興国ではそうではない。そういう合法だか違法だか定かならざる私的な改造車が山ほど公道に溢(あふ)れているのがタイの現実で、そこへ先進国の安全理念を振りかざしてみたところでどうにもならない。その土地ではその土地のルールがあり、彼の地で是とする使い方に従うより他ない。
IMVゼロは、両方の意味でもう一度ワークホースの基本に戻って、現地の人々の使い方に寄り添うクルマへと回帰したモデルである。荷台にバカ高いアオリを立てて、最大積載量をものともせずに天高く農産物を積み上げるも良し、適当なイスをいっぱい付けて定員もよく分からないバスにするもよし、冷蔵庫や冷凍庫を付けて海産物や食肉を運ぶもよし。そういう拡張性の高いトラックの原点に戻った。改造されるのが前提の無駄を省いたベースカーであり、まさにタイの物流改革の礎となるクルマである。
もちろん改造幅が広いということは、先進国ではキャンピングカーにしたり、屋台にしたりといった拡張性も同時に備えることになるので、ファッション的ニーズも含めて、日米でも広がりそうである。基本となるシャシーは今のIMV、つまりハイラックスのシャシーを完全にキープしている。ここを変えるとIMVではなくなるから死守する必要があるのだ。
逆に言えば、そのハイラックスにBEVがあるのなら、同じシャシーのIMVゼロでもBEVはすぐ作れる。トヨタ側でもそこまでの準備は済ませていることになる。だから「今できること」なのだ。
余談ではあるが、このタイのプロジェクトのために生まれたハイラックスのBEVとIMVゼロは、先進国でもそれなりに人気を博す可能性が高い。日本でも特にIMVゼロはウケそうな感じを強く受ける。
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