さらに、ルクミ―導入を契機に大塚氏が目指したことの一つは、保護者との接点で「紙をなくす」こと。それは施設側の取り組みだけでは実現できない。連絡帳やおたよりをアプリ経由で配信できるようにしても、市の担当部署や子育て支援に関係する他部署から保護者に連絡が必要なときに、保育園を通じて紙が配布されているからだ。
そういったお知らせやアンケートなども原則オンラインにし、必要な場合のみ紙で対応するようにしないと、紙の配布は減っていかない。そのためには、市の複数の部署に働きかけを行う必要がある。
「私は『冷蔵庫に紙を貼らないようにしよう』と言っています。紙を探したり、なくさないようにしたりすることを、自治体が住民に“強いている”状態はよくありません」(大塚氏)
すでに、ペーパーレスの取り組みが他部門を巻き込んだ事例もある。「読書週間」のチラシ削減だ。市では、毎年春と秋の読書週間に、保育園や小中学校を通じて、市内の子どもに参考図書などを紹介するチラシを配布している。担当部署では、年2回、印刷室で大量にチラシを刷り、施設や学校ごとに仕分けする作業が発生しているという。
ルクミ―導入後の公立保育園では、22年秋の読書週間は紙のチラシの配布をやめた。配布用チラシの印刷を断り、アプリのおたより機能を通じて、PDFでチラシを配信したのだ。「紙で配ることではなく、伝えることが市の仕事です。保育園以外の部署が大量印刷を見直すきっかけになりました」(大塚氏)
大塚氏が見据えるのは、住民の“常識”が変わることだ。保育園で数年かけてデジタル化に取り組めば、子どもが小学校に進学した保護者がペーパーレスについて市や学校に意見を言ってくれるようになるかもしれない。「市から働きかけるだけでなく、保護者側から『おかしい!』という声が出てくることが、持続的な変革には必要なのです」(大塚氏)
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