では、エッジAIによってリテール業界では何が可能になるのでしょうか。端的にいうと、売り上げアップや収益性の改善が挙げられます。また、そこでたまった知見を外部に売ることで新たな収益源を生むことも考えられます。
どのようにそれを実現するのか。顧客層分析、リテールメディア、対面接客という3つのパターンについて具体的な道筋を解説します。
まず顧客層分析ですが、エッジAIを搭載したカメラで、施設などへ訪れる人の属性や人流を解析し、テナントレイアウトや賃料の最適化につなげます。例えば、施設内で特に人が訪れやすい“一等地”を明らかにして賃料に反映する、あるいは人流データを基に売り上げ向上が見込めるレイアウトを組むなどがあるでしょう。
その他、店舗で新商品を発売した際の来訪者の反応や、販促イベントを実施した前後の顧客の変化などをデータで具体的に解析できるようになります。また、データに基づいた意思決定により確度の高い需要予測が立てられるため、商品の廃棄といった無駄を大幅に削減でき、次のフィードバックにつながります。
こうして自店舗の収益を改善するのは第一歩であり、将来的にはその知見を基にテナントレイアウトの提案をAIが自動で行えるかもしれません。そこまでいくとこの仕組み自体を外部に販売するビジネスモデルも見えてきます。
次に、リテールメディアでの活用を解説します。店舗への来客を対象にした広告ビジネスによる売り上げアップが考えられます。サイネージにエッジAIカメラを併設することで、表示し広告の視聴率を計測できる他、見ている人の年齢や性別の推定値を得ることもできます。このデータを解析することで視聴率に合わせた広告料の設定も可能でしょう。また、どんな広告が効果的か分かれば、その解析を基に店内商品をアピールし、売り上げ向上につなげる形も想定できます。
将来的にはサイネージを使った広告のABテストなどを実施し、広告のクリエイティブや商品開発にフィードバックする事も可能だと考えます。これらの取り組みも、知見を外部に販売することが可能でしょう。
対面接客についてはエッジAIマイクの活用が有効です。顧客とのやり取りを録音・解析することでクレーム対策の一助になるでしょう。現場では、顧客との“言った言わない”のトラブルにスタッフの労力が割かれているケースもあり、それらを減らすことは生産性の向上につながります。将来的には接客中の音声を解析して、接客スクリプトの改善などにつなげることも想定されます。これも収益性改善に関連する取り組みです。
繰り返しになりますが、こういったエッジAIによる解析はリテールに限らず、人のいる空間であれば全て横展開が可能です。公共交通機関、不動産、イベント施設などのあらゆる空間で人の動きを解析して得た知見を活用できるのです。
本連載では、今後も1つ1つの事例を紹介しながら、成果やノウハウ、エッジAI技術の可能性を解説していきます。
Idein(イデイン) CEO 中村 晃一
1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。
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