「ステマ規制」によってどうなる? 担当者の“冤罪”が多発する日スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2023年02月21日 09時23分 公開
[窪田順生ITmedia]
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便利な「武器」を活用する可能性

 ネットの誹謗中傷に対して、裁判を起こしても決着するまでかなり時間がかかる。デマの発信元を訴えても、既に情報が拡散しているので名誉は回復しない。

 しかし、ステマ規制ならばもっと簡単だ。例えば、日本端子問題のような「デマ」を流したジャーナリストやインフルエンサーの身辺を洗って、企業などから対価を得て情報発信していたことが分かれば、今回の規制を適応させる。それを記者会見でメディアに流せば、社会的信用は一気に失墜する。そうなれば、その人が主張していたことの信ぴょう性も――。

ステマの実態(出典:消費者庁)

 「マンガの読みすぎだ、世界一優秀でマジメな日本の官僚が、政治家の名誉回復のために法律をねじ曲げるわけがないだろ」と笑う人もいるだろう。しかし、忘れている人も多いが、日本の優秀な官僚は、政治家を守るためや役所のメンツを守るためには、公文書も改ざんするし、統計の数値もいじることがこれまでも明らかになっているではないか。

 明確なルールに基づくことなく、企業だけではなく個人までステマと断罪できるような便利な「武器」を活用して、出世のために政治家のご機嫌取りくらいしてもおかしくはない。

 いずれにせよ、今回のステマ規制によって、消費者庁のさじ加減ひとつで大量の「罪人」が生み出される可能性は高い。しかも、日本人はミスした人を見つけては、よってたかって攻撃するのが好きだ。ステマ規制が本格的にスタートすれば、SNS上で企業やインフルエンサーがそれらしいことをしていないのかをパトロールして、消費者庁にたれこむことを生き甲斐とするような「ステマ警察」も大量発生するはずだ。

 マーケティングや広告プロモーションを生業(なりわい)としているみなさんはいつ「犯罪者」にされるか分からない。企業も個人も何も発信しないことが「ベストな選択」という暗い時代が、実はもうそこまできているのだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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