20××年のある日、いつものように会社に出社したあなたは、上司から「ちょっといいか」と会議室に呼ばれた。そこには社長以下、経営陣がずらりと勢ぞろい。戸惑うあなたに上司は深刻な顔でこう詰問した。
「単刀直入に聞くが、君はA社のステマやっているのか?」
突きつけられたのは、あなたが匿名で運用しているインスタだった。「孤独のグルメ」に憧れて外回りなどで食べ歩きした料理写真を、友人などに見せるためのアカウントだが、その中にたまたま得意先であるA社が発売したスナック菓子の写真を、「びっくりするほどおいしい」などというコメントとともにアップしていたのである。その事実が消費者庁へ情報提供され、景品表示法違反にあたると判断されたという。
「いやいや、宣伝の意図なんてまったくありませんよ。先日、A社の担当者と会食をしたとき、『お子さんにどうぞ』と試供品をいただいて、おいしかったので素直にそれをアップしただけで……」
あなたの説明に経営陣はみな頭を抱えた。聞けば、どんな形であっても「対価」を得てSNSで紹介をするのは「ステルスマーケディング」だと判断されるという。「厳しい処分を覚悟しておけ!」と声を荒げる上司に、あなたは必死で食い下がった。
「ちょっと待ってください! 芸能人やインフルエンサーならいざ知らず、私のインスタなんて友人や仕事関係がメインでフォロワーも1000人程度ですよ。しかも、試供品をいただくことは会社員ならみんなやっているのに、なぜ私だけが? 何か明確な基準とかはないんですか?」
すると社長や経営陣はみな顔を見合わせた。そして、その中の1人が苦笑いをしながらこんなことを言った。
「あのなあ、明確なルールなんてものはそもそも存在しないないんだよ。消費者庁がステマだと判断したらそれはステマ。めちゃくちゃな話だけれど、2023年にそう決められてしまったんだよ」
――そう遠くない未来、日本全国の企業でこんな「ステマ冤罪」が多発するかもしれない。23年秋から消費者庁による「ステマ規制」が本格的にスタートするからだ。
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