甲子園の「ペッパーミル騒動」に批判の声 日本のネガティブイメージが経済に与えうる影響世界を読み解くニュース・サロン(3/3 ページ)

» 2023年03月23日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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日本企業にも通じていた「異様なルール」

 これは日本らしい企業体質にもつながる。終身雇用で年功序列の「昭和的」な働き方は今の時代にはフィットしなくなっていると言われて久しい。

 昨今、そうしたやり方は生産性や企業価値向上の観点から見直すべきという傾向が強い。さまざまな技術革新が日々起こる現代において、世間や企業の言いなりになって仕事しているだけでは企業としてはもちろん、ビジネスパーソンとして生き残っていくのも難しい。

 少しずつではあるが、実際にこのような危機感のもと日本企業は変化してきている。ならば、高校野球も「昭和的」な体制から脱却しなければならない時が来ているのかもしれない。

 WBCの試合を見ていると、パフォーマンスとしてチームや試合を盛り上げることは決して悪いことではなく、むしろ歓迎されるべきことのように思える。WBCの準々決勝で米国チームは、劇的な満塁ホームランを放った選手をホームで盛大に迎え入れた。それにより、一気に会場の熱気が高まった。準決勝の侍ジャパンのサヨナラ勝ちも然りだ。選手が感情を爆発させているのを見て、筆者も次の試合への期待値が高まった。

試合を盛り上げるためのパフォーマンスは決して悪いことではないように思える(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズより)

 社会現象にまでなっている「ペッパーミル・パフォーマンス」を批判するという日本のズレた指摘は、日本のネガティブイメージにつながるのではないだろうか。

 ここ約10年の日本がらみの大きなニュースを振り返ってみたところ、日本にマイナスなイメージを持つような報道が海外で増えたように感じる。2015年にトヨタ自動車の米国人常務役員が米国では認可されている鎮痛剤を日本に持ち込もうとして拘束された話にはじまり、19年には日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が国外逃亡、21年には名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人の女性が死亡している。

 こうしたネガティブなニュースが日本のイメージを作っていく。以前よりも広くニュースなどが拡散されやすくなった現代において、その傾向はより顕著である。観光などの一時的な滞在であれば、日本独自のルールは無視すればいいが、日本で暮らして日本企業に働くとなるとそうはいかない。

 日本政府は3月17日に開催した「教育未来創造会議」の中で、高度な技能や知能をもつ海外人材を獲得するため「特別高度人材制度」の新設を決定した。年収2000万円以上の外国人は、日本に1年間滞在すれば特別に永住権が得られるなど優遇措置があるという。

教育未来創造会議における提言(画像:内閣官房「教育未来創造会議」より)

 こういった海外人材の確保を狙ったアピールが、ペッパーミル騒動のようなネガティブイメージによりかき消される危険性を考えるべきだと筆者は思う。もちろん、ペッパーミル騒動を肯定的に捉えた人もいた。

 「Japan has a different culture than we do and they seem to have significantly fewer problems with crime and cultural corruption. Maybe we should consider their approach.(日本は私たちとは違う文化をもっていて、犯罪も文化的な腐敗もぜんぜん少ない。日本のやり方を学んで考慮すべきかもしれない)」

 日本独自のルールや規律が、日本の安全性やユニークな文化を築いていると捉えられなくもないが、その上にあぐらをかき続けるのは控えるべきだろう。日本の当たり前が世界では「やりすぎ」「タブー」と見なされることもある。ペッパーミル騒動もそうだ。

 そういった、日本の少し受け入れがたい独自ルールの是正はビジネスの世界だけでなく、スポーツや文化などさまざまな分野で広がっていくべきだと考える。それが結果として日本全体のイメージ向上につながっていくと期待したい。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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