伝える側の問題は大きいが、受け取る側の問題もある。内燃機関の全面禁止の弊害などいくらでも書き出せるのだが、そういう真面目な問題提起に対して「なんだか医者から食生活改善を指示されているのに、何もしようとしない糖尿病患者みたいだな」という見方がある。筆者が書いた記事のコメント欄でリアルに見かけた言葉である。
しかしよく考えてみよう。例えば「糖質を制限しましょう」と医者が言ったからと言って、それは糖質の完全禁止を意味しているわけではないし、ましてや絶食を勧めているわけでもない。そんなことをしたら別のリスクが発生する。「ちゃんと計算しながら必要量は取りましょうね」という発言を「何もしようとしない」と受け取るのは恣意的すぎる。筆者からすれば面倒な計算やそのたびに判断や行動変容を求められるのを忌避するばかりに、「もう絶食でいいや」と思考停止しているように思える。
絶食ダイエットなんてもってのほか、というのは普通に考えれば分かるはずなのだが、そこでより厳しい方法を取ったほうがエラいと、求道的みたいな妙な思考が入り込むと極論に走りがちになる。ましてやそのリスクを引き受けるのが自分自身の我慢でなく、誰かを責め立てればいいのであれば、極論に走るのは簡単だ。
だからこそ、日本自動車工業会の豊田章男会長は、「敵は炭素であって内燃機関ではない」と言い続けてきた。それは「糖質制限の話を絶食の話と取り違えないように気をつけましょうね」という言葉だったが、大手メディアはそれを、既得権益者のポジショントークであるかのように報じ続けた。
こういう構造の中で、問題をややこしくしてきたのはマスメディアのミスリードと、深く調べもしないで極論を信じ、それをリツイートして拡大再生産を続ける人たちなのだが、そもそも火のないところに煙は立たない。そこに火をつけて回る人たちがいるからこういうことになるのだ。
では、それは誰なのか? 薄々は分かっていたことだが、日経ビジネス電子版に載ったインタビュー記事(3月7日付)がようやくその裏書きをしてくれた。
犯人は想像通り、欧州委員会である。記事でインタビューに答えていたのは「自動車の経営に大きな影響を及ぼす。環境担当として欧州の自動車規制も統括する欧州委員会のティメルマンス上級副委員長」(原文ママ)。
同紙でのティメルマンス氏の発言を簡単に要約すれば、以下のようになる。
1. 多くの自動車メーカーは2035年より前に排出ガスフリーになる
2. e-FUELには経済的観点からあまり意味がない
3. e-FUELを使う内燃機関は欧州で作られることはない
4. e-FUELは排出ガスフリーではないからダメ
5. ハイブリッドの2035年以降販売禁止はEU全体の決定事項
6. タイヤやブレーキパッドから出る公害についての規制を行いたい
面白いのはティメルマンス氏はこれらの提案を自動車に対する敵対的な規制だとは全く思っていないことだ。むしろ「私たち欧州の人々にとって、自動車産業は必要不可欠な産業です。欧州の自動車産業の競争力を高めるために、あらゆる手段を講じるつもりです」と発言しており、こうした規制が自動車産業の発展に資すると思っているようだ。
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