クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ようやく議論は本質へ 揺らぐエンジン禁止規制池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2023年03月27日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

「e-FUEL」に関する間違い

2. e-FUELには経済的観点からあまり意味がない

 これは現時点ではその通りだが、そんなことを言うなら内燃機関とBEVの比較も全く同じで、文中のe-FUELをBEVに差し替えても成立してしまう。気候変動という重大な問題に対して、技術革新をして解決していこうと決めたのであれば、聖域を作らず、技術革新をしていくしかないだけの話である。トライの結果が勝率10割になることはない以上、幅広くさまざまな可能性にトライするしかないし、その結果、淘汰される技術があるという簡単な話だと思う。

3. e-FUELを使う内燃機関は欧州で作られることはない

 これも単純な話で、先ほど説明した通り、欧州委員会にそんなことを決定する権限はない。そしてそれが正に証明される形で、25日に内燃機関の生産継続が確定したのだ。

 仮に別の世界線の話として、仮に本当に決定権のあるEU理事会が欧州での内燃機関禁止を決定した前提で考えても、彼らにも、欧州の自動車メーカーが内燃機関を作って域外で売ることも規制する権限はない。

 仮に欧州員会やEU理事会が全地球規模で脱炭素に責任を持つのであれば、まず欧州は化石燃料の生産と輸出を止めるべきだ。環境優等生のノルウェーはエネルギー自給率600%。確かに自国で利用するエネルギーは限りなく100%が水力発電由来だが、それで澄ました顔をして暮らせるのは北海油田から産出される自国のエネルギー消費の5倍もの石油を海外に売って外貨を稼いでいるからだ。論旨に重大な矛盾があるというより、ティメルマンス氏は各組織の権限とその及ぶ範囲を全く理解していないと感じる部分である。

4. e-FUELは排出ガスフリーではないからダメ

 これは重大な齟齬(そご)をきたしている。e-FUELは、大気中の二酸化炭素と水素を使って生産する合成燃料である。そしてこれこそが25日に内燃機関の存続条件として認められた合成燃料そのものだ。e-FUELは、大気中にあったCO2を、燃焼時に元あった大気中に戻すだけなので、二酸化炭素の増加を招かない。地中に安定的に固定されているカーボンを大気中に放出してしまう化石燃料とはそこが違う。

 この総量で増えなければOKという概念がカーボンニュートラルで、ティメルマンス氏のような欧州全体の環境政策を決める立場にある人物が、カーボンニュートラルを理解していないのは重大な問題である。もし、カーボンニュートラルすら認めないということになれば、例外なく一切の二酸化炭素排出を全部止めなくてはならない。そしてそれには人間の呼吸も含まれることになる。もはやめちゃくちゃである。

 だからこそ、欧州委員会の決定はティメルマンス氏のインタビュー内容と真っ向対立する形になった。現実的な話として欧州員会の決定プロセスとティメルマンス氏の理解や解釈には齟齬がありすぎる。どう考えてもスポークスマンとしては相応しくないし、本質的に言えば明確な異分子である。

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