『桃太郎電鉄』今度の舞台は「世界」 最新作で思うゲームのポテンシャル(2/2 ページ)

» 2023年03月31日 06時30分 公開
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無償の教育版も登場

 「桃太郎電鉄」シリーズで思うのは、ゲーム業界のイメージをアップさせたり、ゲームの理解者を作るコンテンツとしてのポテンシャル(潜在力)です。

 ゲームには、子供の勉強を阻害する“親の敵”というイメージがどうしても付きまといます。実際、自分の子供に「できればゲームを遊ばせたくない(遊んでほしくない)」という親は、一定数いるはずです。

 ですが、桃太郎電鉄であれば、勉強の役に立つわけです。都市名だけでなく、都市の場所、世界の地形のイメージなどもつかめるはずです。なぜなら、ゲームをスムーズにプレーするには不可欠だからです。暗記が嫌いな人でも、大好きなドラマやアニメの俳優や声優、ストーリーなどはすぐ覚えてしまいます。

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photo 世界の都市名や地形も学習可能(ともに出典はコナミのプレスリリース)

 ついでに言えば、投資の重要性や、お金を増やす経営感覚?も直感的に学べます。そして、ゲームを普段しない人がすぐ遊べるハードルの低さがある上に、単純に面白いので熱中するため、教育効果も高そうです。

photo お金を増やす経営感覚も直感的に学べる(出典:コナミのプレスリリース)

 実は桃太郎電鉄は、ゲーム感覚で遊べるデジタル教材「桃太郎電鉄 教育版Lite 〜日本っておもしろい!〜」を2月から教育機関向けに無償提供しています。貧乏神がいなかったり、金額での配慮、ランドマークの説明を入れていますね。学生のみなさんは「先生!こういう教材があるよ」とアピールし、せっかくなら、楽しく勉強をすると良さそうですね。

 こうした取り組みは、企業にとって短期的な利益にはつながりません。しかし、長期的にはお金で買えない利益があるのではないでしょうか。子供への影響力が大きく、何かと目の敵にされやすいゲーム業界にとって、業界外の理解者は大切です。

 コナミグループは以前から、社会課題を解決するためのゲーム「シリアスゲーム」を人道支援機関と協力して制作したり、野球ゲームなどを出す関係からプロ野球のスポンサーになったり、企業イメージアップ、ブランドの向上に気を配っています。

photo 国連世界食糧計画(WFP)と協力して制作した『Food Force』(出典:コナミのプレスリリース

 近年は変化の兆しがありますが、長年ゲーム業界を取材をして感じるのは、ゲーム会社は、潜在的な課題があっても、問題が表層化するまで気にしない傾向にあります。そして、大手ゲーム会社はおおむね高利益体質で、社内に蓄積した資金も潤沢です。にもかかわらず、社会貢献をしてアピールすることはあまりないのが残念です。

 桃太郎電鉄の教育版のような取り組みを長期的に続ければ、ゲームが何かの形で批判されたときも、教育関係者から「ゲームも良い点はある」と助け船が出ることもあるでしょう。大切なのは、さまざまなゲーム会社が、長期的視点に立って社会に役立つ地道な取り組みをして、実績を積み上げ、業界外から信頼を勝ち取ることです。

 とはいえ、桃太郎電鉄のような、第三者にも分かりやすく役に立つゲームは、そんなに多くありません。それだけに桃太郎電鉄には、ポテンシャルがあると思うのです。

 ゲームである以上、面白い、斬新なゲームを作ることがメインであるのは変わらないと思いますが、ゲーム業界のイメージをアップさせるため、さまざまなアプローチがあってよいと思うのです。そこから意外な「引き出し」が見つかって、ゲームビジネスの幅が広がる可能性だってあると思うのです。

書き手:河村 鳴紘(かわむら・めいこう)

ゲーム、アニメ、マンガなどを主戦場にするフリーランスのサブカルライター。ヤフーオーサー、マンガ大賞選考員。メディア所属時には、決算会見や各発表会に参加し、独自記事なども執筆。20年以上ゲーム業界を中心に取材している。2020年5月、「ドラゴンクエスト」大ヒット連発なぜ? 30年前の伝説の熱狂」でヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞した。「文春オンライン」や「Number Web」(ともに文藝春秋社)などでも記事を執筆。静岡放送などでラジオに出演することも。

ヤフーニュース個人:「河村鳴紘のエンタメ考察記

Twitter:@kawamurameikou

note:河村鳴紘

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