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バズワード化する「人的資本経営」 “もどき”で終わる残念なケース3選働き方の見取り図(4/4 ページ)

» 2023年03月29日 08時30分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 さらに、時代とズレた経営戦略に固執する会社が、体裁を保つために戦略偽装型の人的資本経営もどきに走ってしまうと最悪です。偽りの姿を騙(かた)れば騙るほど実態が見えづらくなり、あたかも人的資本経営の優等生であるかのように社内外を錯覚させ、経営戦略刷新の機会を逃し続けることになります。

 人的資本経営という言葉がバズワードになって独り歩きすると、流行に乗ろうと体裁だけ整えた会社による人的資本経営もどきが増えてしまいます。そして、人的資本経営という言葉のバズワード化はさらに加速していきます。

時代に合った人的資本経営の追求

 しかし、人的資本経営という言葉や概念が、時代が移り変わる中で新たに生みだされた流行のようになってしまうことには違和感を覚えます。なぜなら、人を経営の軸に据え、人材をコストではなく投資対象と見なす考え方は、むしろ日本企業が強みとしてきた伝統的概念だったはずだからです。パナソニック創業者の松下幸之助は、昭和の時代から「企業は人なり」と説いていました。

画像はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 また、いまさまざまな弊害が指摘されている年功賃金などの人事システムが確立されたのは、高度経済成長期だと言われます。しかし、当時の市場環境は現在とは大きく異なりました。経済が急速な発展途上にありコンスタントに人口も増え続けていたため、会社が長期的な経営戦略を立て、豊富な労働市場の中から厳選採用した新卒社員を終身雇用して囲い込む人材戦略が上手く連動して企業価値が向上していく流れが、人的資本経営を成立させていたのです。

 そのため、当時は年々着実に賃金が上がっていく年功賃金などのシステムが、人的資本経営を機能させる上で適していたといえます。しかし、現在は市場環境がガラリと変わって、年功賃金などは人的資本経営を行うシステムとして適さなくなってきました。それなのにシステムの維持に固執し続けてしまうと、肝心な人的資本経営の方が見失われてしまいます。

 そう考えると、人的資本経営は新たに生まれた流行語などではなく、原点回帰を表す言葉だといえます。これからの時代に合った人的資本経営の追求。そこには未来に向かって新たな取り組みを進めていく意味に加えて、過去の経営者たちが実践してきた“人を大切にする経営”のあり方を現代に問い直す意味があるのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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