この記事は、Yahoo!ニュースに4月6日掲載された「社会保険料も「税」である」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
茂木自民党幹事長の「増税に頼らずやる」とする一方「保険料について検討」との発言が物議を醸しています。
日本では、社会保険料と税は異なるものと認識されていますが、賃金が税源という点では社会保険料も税も同じものです。実際、米国では高齢者医療や年金の財源は「給与税(payroll tax)」と呼ばれています。
細かいことを言えば、税には反対給付がないけれど、社会保険料には見合いの給付があるという違いが強調されることもあります。しかし、公的年金制度には消費税が投入されていますし、医療保険では高齢者医療への支援金が存在しています。つまり、日本では社会保険とは言っても名ばかりで、リスクに見合った負担・給付にはなっていないのです。また、一部の識者が理想視するスウェーデンでは社会保障の主な財源は税金です。
総務省統計局「家計調査」を見れば、すでに日本の平均的な勤労世帯家計では社会保険料(6万7175円)は所得(実収入61万7654円)の11%、所得税(直接税4万9445円)は8%と給与にかかる税金は20%となっています(なお、「家計調査」の社会保険料の負担額には企業負担分が含まれていませんから、機械的に計算すれば、実質的には社会保険料負担は22%となります)。
さらに、異次元の少子化対策で所得に負担が上乗せされるわけですから、現役世帯はたまったものではありません。
それでもなお社会保険料を財源に求めるというのは、「高齢世代の反対が少ない」ということが一番大きいと考えられます。また、社会保険料の場合、労働者の負担ではない企業負担も存在するので得であるという一種の錯覚によって負担感を少なく感じさせるという狙いもあるとすれば、それは「国家的な詐欺」ともいえるでしょう。
また、メディアも社会保険料は税ではないかのような政治家、財界人、識者の意見を垂れ流すのはやめるべきでしょう。
「社会保険料も税」なのです。社会保険料の引き上げは、結婚予備軍、出産予備軍の若い独身者や子なしカップルにとって「独身税」「子なし税」として機能するので、少子化が加速する可能性もあると思いますが、皆さんはいかがお考えでしょうか?
富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学等を経て現在、関東学院大学経済学部教授。
政治や経済・財政、社会保障、人口動態に関するデータ・シミュレーション分析が専門。著書に、『教養としての財政問題』(ウェッジ)など。
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