好立地の「吉野家」が採用難で休業・時短! 「時給」アップでは限界 どう乗り切る?発想の転換が必要(5/5 ページ)

» 2023年05月29日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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「時給高い」「近い」「融通がきく」では限界

 では現実的にはどんな切り口で人手不足をカバーしたらよいのでしょうか。

 私は「脱・高時給、脱・人依存、脱・若者」という3つの切り口があると考えています。

(1)脱・高時給

 時給の高さを競うのではなく、コンセプトを明確に打ち出すべきと考えています。4月、東京・新宿に大型の飲食店がオープンしました。東急歌舞伎町タワーのフードホール「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」で、複合型エンタメビル2階にできたレストラン街となっています。新宿カブキhallは1000平米、10店舗の飲食ブースで1300席の大型レストランです。そのアルバイト募集の内容がこちらです。

 時給は吉野家とそう変わらず極端に高いわけではありません。時間も夜から朝までの営業ですが、週1回3時間からOKで、新店であり話題性もあります。そして何といっても「オープニングスタッフで200人の仲間ができる」とあります。吉野家は「時給良くて、近くて、融通がきく」とアルバイト採用ページでうたっていますが、新宿カブキhallと比較すると、魅力が伝わりづらい感は否めません。

 同じ新宿エリアで働くのであれば、時給が良くて、融通がきいて、たくさんの仲間と知り合える話題の施設で働いてみたいと思うのが自然でしょう。若者ならなおさらです。この東急歌舞伎町タワーでさえ完全に人が充足しているわけではないようですが、それでも多数のアルバイトを雇用することができています。単に時給を高くすれば人が集まると考えている企業は今後かなり苦労します。

 時給以外で売りになるものとして私は福利厚生を重視しています。しかしそれも、何を大切にする会社なのかという自社、自店のコンセプトを明確に打ち出せないと、いくら福利厚生を整備したところで人は集まりません。高い時給や働きやすさを売りにして一時は人が入ったとしてもすぐに辞めてしまうでしょう。いかに時給以外の魅力を打ち出すかです。

(2)脱・人依存

 現実的に店を開けてお客さんを入れるためには人が必要です。しかし全ての作業を人だけに依存するままでは、人が集まらなかった時に店を閉めざるを得なくなります。人が少なくてもまわる仕組みを開発する必要があります。すかいらーくグループは、ロボットを活用してそれを打開しようとしています。すでに店内に配膳ロボットを導入し、およそ1年半が経ちました。全店の7割で配膳ロボが活躍しています。すかいらーくグループは2979店舗(23年4月時点)ありますので、およそ2000店舗以上に配置されていることになります。

 すかいらーくでは配膳ロボットの導入により、店の生産性を上げることにも成功しています。ガストでは従業員の歩行数が42%減少、片付け時間も35%減少し、店のピーク時の回転率は2%上昇しています。人のやっていた仕事をロボットが代わりに行い、人はロボットの歩きやすい導線を考えたりロボットの効率分析をしたり、店の売り上げをあげていくための仕事に従事するようになっています。

 結果的にすかいらーくでは23年3月の既存店売上高前年比が126.6%。19年比でも既存店売上高は90.4%にまで戻ってきています。午後9時以降の売り上げも上昇しています。ロボットを活用する企業は今後増えてくるでしょう。

 またローソンは22年11月に「グリーンローソン」(東京都豊島区)という実験店舗をオープンしています。モニター画面にいるアバターが接客やセルフレジの操作を教え、店舗に人がいなくても遠隔地からオペレーターが店舗を運営します。今後1000人のオペレーターを育て、地方加盟店の人手不足にも対応していくといいます。ただし、ロボットやアバターは人と組み合わせてこそうまくいきます。アナログとデジタルをどう一体化させるかは忘れてはいけないポイントです。

(3)脱・若者

 冒頭で紹介した年齢別の非正規雇用者で、もっとも増えている年代は65歳以上の人材です。企業の中にはまだ65歳以上人材の雇用に躊躇(ちゅうちょ)しているところもありますが、実際に早くから雇用してシルバー人材が活躍している飲食企業があります。

 それはモスバーガーです。同社では14年ごろから積極的にシルバー人材の採用をしています。当時「モスジーバー」と一部では呼ばれていました。その当時、モスの担当者にお話をうかがったことがあるのですが、人手不足からシルバーを採用し始めて、思わぬ副産物があったそうです。

 「高齢者の方々は無遅刻・無欠勤で非常に真面目に働く。お客さまの反応も良い。もともと若い世代が中心の客層でしたが、同世代の方が働く姿に安心感があるからか、高齢者のお客さまが増えるという相乗効果もでてきた」という内容でした。最近も、モスの店内ではシルバー人材が朝から働いている姿をよく見かけます。朝モスのメイン客層は40〜50代女性と60代男性が多いのだそうです。若者だけが非正規の対象ではありません。モスジーバーのような人材活躍が、新規客開拓のきっかけにもなります。人手不足時代の切り札といえるかもしれません。

 人手不足は今や日本企業の抱える大きな課題となっています。小手先の対応策ではどうしようもないところまできています。自社は何をめざしている会社なのか。ありたい姿を描けない会社に人はやってきません。各社の抜本的な対策が求められています。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

 1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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