「物言う株主」と対立のセブン&アイ コンビニとスーパーの「二刀流」を選んだ理由株主はコンビニ注力要求(2/4 ページ)

» 2023年06月30日 06時22分 公開
[関谷信之ITmedia]

バリューアクトの「提案」

 「イトーヨーカドーを分割しセブンイレブンに注力すべき」。これが、バリューアクトの提案である。実行すれば、6年後の株価が2.5倍以上(6000円弱→1万7000円弱)になる、という。決算書がそれを裏付ける。

photo バリューアクトの資料

 セブン&アイの2023年2月期決算値では、イトーヨーカドーなどスーパーストア事業の利益率(営業利益÷売上高)は「0.86%」。対する、国内コンビニエンスストア事業(セブン・イレブン・ジャパン)は「26.06%」。差は歴然だ。

儲からないコンビニ

 「だったら、スーパーなんてやめてしまえばいいのに」。そう考えるのはもっともだ。だが、ちょっと待ってほしい。同じ「小売」なのに、なぜこうも利益率が異なるのか? 商品単価が高いから?営業時間が長いから?  いや違う。

 理由は「ある費用が、イトーヨーカドーでは発生するのに、セブンイレブンでは発生しないから」。

 ある費用とは、総菜の加工費、従業員の教育訓練費などだ。これらの多くは、セブンイレブン(フランチャイズ本部)ではなく、加盟店(フランチャイジー)が負担している。

 例えば、アメリカンドッグなどの加工費だ。イトーヨーカドーの場合、解凍する、揚げる、器にのせる、などの加工費が発生する。

 これに対し、セブンイレブン(フランチャイズ本部)では、発生しない。加盟店で加工するからだ。これら加工の手間を考慮すると、「ファストフードはほとんど赤字」と試算する加盟店オーナーもいる。

photo アメリカンドッグ(提供:ゲッティイメージズ)

 教育訓練費の負担も大きい。コンビニ従業員の業務は、スーパーより広範にわたる。宅配便を受け付ける。コピー機のつまりを直す。コロッケを揚げる。高齢客にスマホの使い方を教えることすらある。コンビニ従業員は、製造業でいう「多能工」だ。育成に時間がかかるし、その時間にも給料が発生する。

 これら費用を含めて計算した、コンビニ加盟店の利益率は、約「3%」(公正取引委員会 実態調査報告書より算出)。上述したイトーヨーカドー(スーパーストア事業)の利益率「0.86%」に近づく。つまり、セブンイレブンの全店舗を直営に切り替えたら、利益は大幅に減る。「コンビニは(バリューアクトが期待するほどは)儲からない」ということになる。

 フランチャイズは「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ビジネスモデルだ。本来、セブン・イレブン・ジャパン(本部)が負担すべき費用を、別事業者である加盟店(フランチャイジー)が負担しているところに、このビジネスモデルのいびつさがある。

 このいびつさは、人手不足、ひいては加盟店オーナーのなり手不足を招く。

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