「物言う株主」と対立のセブン&アイ コンビニとスーパーの「二刀流」を選んだ理由株主はコンビニ注力要求(4/4 ページ)

» 2023年06月30日 06時22分 公開
[関谷信之ITmedia]
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グローバルチャンピオンへの道

 バリューアクトは、海外コンビニ戦略を、4つのステップの最終段階としている。第1〜3段階は、(おなじみの)イトーヨーカドーなど非中核事業からの撤退。第4段階が「海外コンビニエンスストア事業」の底上げだ。

 セブン&アイの、海外コンビニエンスストア事業の営業利益率は「3.43%」(23年2月期)。上述したコンビニ加盟店(フランチャイジー)の「3%」とほぼ同じ。いわば、普通の利益率だ。しかし、国内コンビニエンスストア事業の「26.06%」よりは、はるかに低い。当然、この状況に、バリューアクトは満足しない。

 粗利(売上総利益:売上高から商品原価を引いたもの)は多いのに利益が少ない。「人件費」が高すぎると分析し、提案書で以下のように指摘する。

「米国セブンイレブンは同産業平均と比べ、最大39%超の正規従業員(full time employee)を抱えている」

 この正規従業員をどうするか。具体策が明記されていないため推測すると、恐らく「セブンイレブン日本方式」の米国への拡大だ。つまり、米セブン本部の作業(=費用)を、加盟店(フランチャイジー)にシフトする(負担させる)ことにより、米セブンの利益率を「3%」から、日本と同等の「26%」程度まで向上させる。

 これが、彼らの言う、セブンイレブン「グローバルチャンピオン」化ストーリーではないだろうか。

米国コンビニオーナーの懸念

 しかし、「セブンイレブン日本方式」の海外拡大は容易ではない。

 「米国に、日本式の──過酷な──フランチャイズシステムが『逆輸入』されつつあるのではないか」

 米セブンイレブン(7-Eleven, Inc.)がセブン・イレブン・ジャパンの子会社となって以来、米国の加盟店オーナーたちは、このような危機感を抱いていたようだ。19年には、加盟店オーナー団体「NCASEF」の幹部たちが来日し、記者会見を開いている。

 弁護士ドットコムの記事によると、幹部たちは、

「プライベートブランドの販売を強く推される」

「『クリスマス』開店が義務付けられた」

「オーナーの裁量が狭まっている」

など、懸念を表明したという。強引な日本方式の展開は、社会問題を引き起こしかねない。

 バリューアクトが提案する、コンビニ事業への「選択と集中」は、短期的には企業価値(株価)を高めるだろう。一方で、そのビジネスモデルのいびつさが、国内店舗減少を招き、海外展開を阻む、という長期的リスクも抱えている。

「選択と集中」VS「多角化」

 「選択と集中」の対極である「多角化」には、長期的リスクを分散するメリットがある。

 もし、セブン&アイがコンビニ事業に進出せず、イトーヨーカドーだけに「集中」していたら、どうなっていたか? 「0.85%」しかない営業利益で、事業を継続できたか? 多角化していたからこそ、生き延びることができたのではないか? 今回の株主総会での主張は、「多角化継続」の主張、とも言える。

 ただ、アクティビストにとって「多角化経営」はデメリットでしかない。何で儲かってるのか分かりにくい。好みでない事業が含まれることもあり、株価が上がりにくい。だから、多角化を批判し、企業分割(事業スピンオフ)を求めることが多い。

 「選択と集中」と「多角化」は古典的な対立議論でもある。どちらを選ぶかは、経営者の視座次第だ。

成長より生存

 セブン&アイ創業者の故伊藤雅俊氏は、「成長より生存」が信条だった。伊藤氏は、著書「ひらがなで考える商い」(日経BP社)にて、以下のように述べている。

「成長より生存を、生き残ることを考えるべきだと、私は思います。攻めより守りということになりますが、長い目で見ればその方が会社のためにも、社会のためにもなると思うのです」

 今回の株主総会は、結果的に、伊藤氏の「信条」に沿った決議となったが、現経営陣が全面的に肯定されたわけではない。

photo 伊藤雅俊氏(セブン&アイHD提供、以下同)

長期戦略としてのSIP、「その場しのぎ」のSIP

 セブン&アイは、今後のアクションプランとして「SIP(=セブンイレブンジャパン・イトーヨーカドー・パートナーシップ)」を発表している。セブンイレブンより広い店舗で、イトーヨーカドーで取り扱う生鮮食品や冷凍食品などを販売する、いわば、二者の「いいとこどり」した業態だという。

 これが、伊藤氏の「信条」を継承した店舗なのか。それとも、スーパーとコンビニのシナジー効果(相乗効果)をアピールし、アクティビストの批判をかわす「その場しのぎ」に過ぎないのか。年内に出店される第一号店が注目される。

書き手:関谷 信之(せきや・のぶゆき)

1964年生まれ。経営コンサルタント。「関谷中小企業診断士事務所」代表。

ソフトウェア会社で16年勤務し、システム開発や生産管理、経理などに従事。Webデザイン歴19年。中小企業診断士登録後は、企業診断を実施する傍ら、「bizSPA!フレッシュ」、言論プラットフォーム「アゴラ」などの媒体でビジネスライターとしても活動中。

Twitter:@kakanrilabo

公式Webサイト:「関谷中小企業診断士事務所

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