しかしこうした課題は、エッジAIによって解決の糸口が見える可能性があります。当社が提供している「AIマイクソリューション」を例に説明します。ICレコーダーにエッジAIを活用していて、人間が発話している期間だけを自動で録音データとして保存します。データは常時クラウドに送られ、端末に残らない仕組みなのでセキュリティの心配もありません。
また、この録音データは“話者分離”、つまり誰が話しているのかを別々に分離して認識できるようになっています。さらに、話者の発話以外の店内放送やBGMなどを“ノイズ抑制”し、記録に残らないようにしています。この技術によって、高精度・高品質なテキストログをエビデンスとして残すことが可能になりました。
このAIマイクはすでに、ある企業が全国展開している接客カウンタ―で約8000台が稼働中です。「マイクを設置している」と示すだけでもカスハラの抑止力になっている他、そのテキストログを生成AIであるChatGPTに解析させることで、よりスピード感をもってリアルタイムに近い形で問題のある接客現場を浮かび上がらせることができます。
例えば、ChatGPTに「お客さまの感情を“Angry(怒り)”“Stress(緊張)”“Joy(喜び)”“Aggression(攻撃的)”“Upset(動揺)”の5つで分類してください」とお願いすると、顧客が怒っている接客場面が抽出できます。その要因として、社員側の「応対マナー」の評価を行ってもらい、それが問題ない場合のみを精査することで、低コストでカスハラの可能性がある場面を抽出することが可能になるのです。
さらに「法律を守った販売行為が行われたか判定してください」など、現場で違法となるような不正販売が行われているかを抽出することもできます。ある業界を想定したテストで、さまざまなテキストログを元に検証した結果では、顧客が渋々納得して帰るようなスクリプトでも正確に検知ができました。
冒頭のかんぽ生命の件のみならず、業界によっては、店舗や営業スタッフによる強引な勧誘や、法律ギリギリラインの接客が問題になっています。1つの店舗の違反事例であってもSNSなどで瞬く間に拡散される時代ですから、企業にとっては事業停止やレピュテーション低下のリスクを常に抱えています。
現場を把握・管理するために覆面調査員を使って全店舗をチェックし、調査結果をふまえてアクションプランを策定するなど、莫大なコストとリソースを投下している企業もあるのです。AIマイクを活用してこれらの作業を自動化・リアルタイム化できれば、不正販売の抑止と、経費削減やリソース最適化の両立が見込めるかもしれません。
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