こうなると当然、「壊れる配達員」もたくさん出てくる。当時の新聞には「失礼な配達員」「乱暴な言葉を吐く配達員」への怒りや不満をつづった投書がよく掲載された。61年8月には、銀座松屋の配達員から暴言を吐かれて「どんな教育をしているのか」という投書をして、松屋の係長が紙面で謝罪するという、令和日本と変わらない炎上騒動も起きている。
さらに、低賃金重労働を強いられている配達員たちが徐々に壊れていることも社会に知られていく。68年には、新聞が、お中元としてビール1ダースを運んだ配達員の態度が悪いことを紙面で紹介して、「最近のデパートはサービスが悪くなった」とこき下ろした。
『汗をふきふき運んできたデパートのアルバイト配達員は、ドカンとビールを置くなり「ああ重たかった。ビールなんか、こっちは一つももうからないのに」暑い日に重いものを運ばされた腹イセも手伝ってか、乱暴な言葉を吐いて出ていった』(読売新聞 1968年7月19日)
日本の経済が成長するにつれて、人件費やガソリン代も高騰していくので、無料配達をやればやるほど百貨店の赤字がかさんでいった。そんな中で少しでも利益を得ようと思うので、配達現場はどんどんブラック化していく。賃金は上がらないので不満は高まるし、教育も行き届かないので配達トラブルも増える。
こうして、74年になると百貨店は無料配達からの「撤退」を余儀なくされていく。消費者からは「世知辛い」「一種の値上げだ」などとボロカスに叩かれたが、背に腹は替えられないということで、明治から続くデパートの伝統的商法はおよそ60年間で終焉(しゅうえん)を迎えたのだ。
しかし、そんな伝統と入れ替わる形で「タダで家までお届けします」をうたう新しい時代の無料商法が台頭してくる。もうお分かりだろう、それが通販会社の送料無料だ。
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