「送料無料」はこのままだと“絶対”になくならない、歴史的な理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2023年07月04日 10時30分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「送料無料」を止めればいい

 では、どうするのか。もし日本が本気で物流の崩壊を避けたいのなら、「送料無料という表示はアウト」なんて上っ面の話ではなく、政府が強制力をもって構造的な問題に手をつけるべきだ。つまり、インフラを実際に支えている中小宅配会社や個人の賃金を「全国一律で引き上げていく」しかない。

 30年間、平均給与が上がっていないことからも分かるように、この「安いニッポン」で「事業者の自主的な賃上げ」を期待しても、実施できるのは大企業だけだ。日本企業の99.7%を占める中小企業が大手に対して強気の価格交渉ができるように、日本のすべての宅配ドライバーの賃金ボトムラインを引き上げることが大切だ。

 「そんなことをしたら、宅配会社や通販会社がみんな倒産して日本はおしまいだ」とかノストラダムスの大予言みたいなことを言う人も多いが、世界では物価上昇に合わせて最低賃金の引き上げをするのが普通で、そんな心配をしているのは日本だけだ。

 しかも、こういう「全国一律の引き上げ」のメリットは、送料無料という悪しき習慣を一律で廃止に追い込める点だ。「日本の物流を守るために全ドライバーの賃金を上げたので、送料無料はできません」といえば、消費者も納得するしかない。それでも赤字覚悟で、無料をうたう業者もいるだろうが、末端のドライバーから搾取することが防げるので、そこは自社で血を流すしかない。

経営悪化が心配であれば、送料無料を止めればいいだけ

 いずれにせよ、送料無料というのは日本人が明治時代から100年続けてきた商習慣なので、そう簡単に転換することはできない。これくらい大胆な構造改革をしていかない限り、送料無料は止められない。それはつまり、配達員の待遇はまだまだ改善しないということだ。当然、若い人は敬遠するので、リタイアした人の再就職が主流になる。高齢ドライバーが増加していくので事故などのリスクも高まっていくかもしれない。

 これまでの日本社会のパターンでは、日本の物流が完全に崩壊してから、やっと「今こそ真剣に議論すべきだ」とか言いだしそうだ。コロナ禍に起きた「医療崩壊」など実は、専門家の間でずいぶん前から指摘されていた問題なのだ。

 しかし、それではまた同じ過ちの繰り返しである。今回ばかりはこれ以上、犠牲者を出さないためにも一刻も早く、ドライバーの一律賃上げを決断すべきではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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