“期待外れ?”の京阪電鉄中之島線はこのままなのか 再生のカギは2つ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2023年07月18日 10時10分 公開
[杉山淳一ITmedia]

大阪市の事情、「中之島再開発と東西方向路線の必要」

 大阪市にとっては、中之島地区の再開発を進めるために鉄道アクセスが必要だった。また大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の路線網は南北方向が多く、東西方向は中央線、千日前線、鶴見緑地線の3路線だ。中之島線ができれば、当時の東西方向路線の北側に1本追加できる。その路線が大阪郊外、京都方面に直通しているなら好都合だった。

 さらに、これから建設する「なにわ筋線」の乗客を増やしたいという事情もある。なにわ筋線はJR西日本と南海電鉄が乗り入れる計画となっているけれど、上下分離の枠組みを採用し、建設と線路設備保有は大阪府と大阪市が出資する「関西高速鉄道」が担当する。大阪市にとって、失敗できない路線である。中之島で京阪電鉄と中之島線が乗り換え可能になれば、京阪電鉄沿線から新大阪や関西空港へ向かう需要を獲得できるだろう。

 大阪市と京阪電鉄の利点が一致したことで、中之島線は大阪市も資本参加することになった。上下分離の枠組みで、建設と保有は中之島高速鉄道が受け持ち、運行は京阪電気鉄道が受け持つ。中之島高速鉄道の出資比率は京阪ホールディングスが33.5%、大阪市が33.33%、大阪府が16.67%。そのほか、日本政策投資銀行、三井住友信託銀行、三井住友銀行、関西電力などが出資している。

 中之島線の想定事業費は1503億円。工期は8年と見積もられた。2002年12月に施工認可を受け、08年10月に開業した。実際の事業費は1307億円と約200億円も圧縮された。原因は工事計画の見直し、作業の効率化、社会的コストの低減などだった。ここまでは良かった。しかし、京阪電鉄や大阪市の期待とは裏腹に利用者数は見込みを大幅に下回る。

需要予測の半分しか利用されない

 14年に公開された中之島高速鉄道の事後評価総括表によると、輸送人員の想定は1日当たり12万3000人だ。しかし実際の輸送人員は1日当たり2万5000人だった。想定の5分の1だ。いくらなんでも少なすぎた。理由は中之島で働く人が大幅に減ったこと。常住人口の都心回帰が起こり、郊外からの通勤需要が減ったこと。つまり、中之島線によって中之島を活性化させる目論見は失敗に終わった。

 これは「なにわ筋線」の開業遅れの影響も大きい。なにわ筋線は中之島線と同時期に構想され、1989年運輸政策審議会答申第10号「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」では、05年までに整備すべきとされていた。つまり、中之島線より先になにわ筋線が開業しているはずだった。線路を延ばしてみたら、アテにしていた相棒がまだ来なかった。

 ただし京阪電鉄にとっては、とりあえず起点駅の混雑解消と増発は達成できた。あとは大阪市が目論み通りに中之島を活性化させ、なにわ筋線を開業してくれるまでガマンするしかない。前出の事後評価総括表では、開業時の実績に基づいた新しい費用分析比が試算されている。13年度以降の計算期間30年で費用便益比は1.09、50年で1.30という。ただし、予定どおりに中之島が活性化され、自動車交通量が削減されるだろうという前提だ。

なにわ筋線の路線図(出典:関西高速鉄道、なにわ筋線について

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