「ビッグモーター」不正 CM起用の俳優は「好感度ダウン」で損害賠償請求できる?経済の「雑学」(1/3 ページ)

» 2023年07月22日 07時15分 公開
[樋口隆充ITmedia]

 中古車販売店「BIGMOTOR」を展開するビッグモーター(東京都港区)が揺れている。自動車保険会社からの保険金を水増し請求していた問題で、第三者による特別調査委員会が報告書を公表した。創業者の兼重宏行社長は報酬を1年間返納する意向を示しているが、報告書では悪質なケースも複数指摘されていたことから、批判の声が集中している。

photo 「BIGMOTOR」店舗(出典:同社公式Webサイト)

 この問題を受け、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険の損保3社は加入者の過去の利用歴と等級について調査に乗り出した他、監督官庁の国土交通省がビッグモーターに聞き取り調査を実施する方針を示すなど、騒動が収まる気配が見えない。

 その余波はテレビCMにも波及している。ビッグモーターは「買い取り台数6年連続ナンバーワン」の実績を強調し、自社のCMを全国放送していた。不正発覚後も変わらずCM放送を続けていたため、CMに起用されていた俳優の佐藤隆太さんの所属事務所ケイファクトリーが、自社の公式Webサイトでビッグモーターとの契約解除を発表した。2017年から出演を続けていたが、好感度の低下を懸念し、事務所側から契約解除を申し出たとみられる。

photo 佐藤さんを広告に起用していた(出典:同社公式Webサイト)
photo 契約解除を発表(出典:ケイファクトリー公式Webサイト)

 芸能人が不倫などのスキャンダルを起こした場合、企業への「違約金」に関する記事が注目を集めるが、今回のようなケース場合、芸能人側が企業に損害賠償を請求することはできるのか。企業法務に詳しい牧野和夫弁護士に見解を聞いた。

芸能人のCM契約 企業と社員の雇用契約と異なる

──ビッグモーターによる不正の影響で、俳優の所属事務所がCM契約を解除した。一般論として、企業と芸能人・所属事務所の契約はどうなっていることが多いのか。企業と社員との雇用関係と何が違うのか。

牧野氏: 独立当事者間での業務委託契約の一種である「CM制作契約」を、企業と広告代理店やタレント事務所間で締結するため、企業と社員との間の従属的な関係に立つ「雇用契約」とは、大きく異なる。

 CM制作契約の関係は、企業が広告代理店とCM制作契約を締結し、さらに広告代理店がタレントの所属事務所とCM出演契約を締結することが一般的。企業がタレントの所属事務所とCM出演契約を直接締結する場合もある。

 CM出演契約の中では、広告主側、企業側の双方のイメージを損なわないように、下記のような規定を置くことが一般的だ。

XX条(双方イメージの尊重)

(1) 広告代理店は、タレントの広告出演および本件広告の使用にあたり、タレントの品位やその培ったイメージを損なわないように配慮する。

(2)所属事務所は、所属タレントをして、広告主や広告主の商品の品位や信用を傷つけないよう、その言動に配慮させ、所属事務所はその責任において所属タレントを管理・監督する。


       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.