──今回のようなケースで、仮に芸能人・その所属事務所が提訴を検討する場合、一般論として、どのような手順を踏み、何が争点になるとみられるか。
牧野氏: 企業側の不祥事が原因で契約違反となった場合に備えて、企業側がタレント側へ支払うべき「違約金」を規定していれば、損害の証明をすることなく、違約金額をそのまま請求することができる。
問題となるのが「違約金」の規定が盛り込まれてない場合だ。この場合、芸能人側で損害を立証する必要があるが、企業の不祥事によってイメージや好感度がダウンし、それが原因で仕事が減った損害(逸失利益)の証明が非常に難しい。
ただし、イメージ悪化で、契約していた仕事がキャンセルになるなど直接的な被害が生じた場合には、逸失利益(得べかりし利益)の証明は比較的しやすい。いずれにせよ、仮に裁判となれば、被った損害が争点になる。
──今回のケースで、芸能人にもCM出演する際のリスクが浮き彫りになった。芸能人、所属事務所は今後、どのような対策を講じ、企業との交渉に臨むべきか。
牧野氏: 損害賠償請求に備えて、(企業側が不祥事で契約違反をした場合)企業側がタレント側へ支払うべき「違約金」をCM出演契約に規定しておくべきだろう。
──今回のように、芸能人・所属事務所と企業がトラブルにならないために、双方にとって望ましい対策とは。
牧野氏: 企業側だけでなく、タレント側にも、企業CM出演時のリスク管理・危機回避の予防措置を講じるべき時代になったといえる。具体的には、タレントが不祥事を起こした場合のみ違約金を規定するのではなく、企業が不祥事を起こした場合の違約金も規定する。こうした契約上のリスク管理を講じることが、これまで以上に求められるだろう。
牧野和夫 弁護士・弁理士
1981年早稲田大学法学部卒、91年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、翌92年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、米アップル法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。
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