「サントリー生ビール」が売れている ヒットの背景に“違和感”あり経済の「雑学」(2/4 ページ)

» 2023年08月23日 09時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

100種類の中から選ぶ

 ビールのデザインを決める際、複数の案の中から選ぶことが多い。サントリーの開発担当者に聞いたところ、一般的には10種類ほどの中から選ぶという。しかし、サントリー生ビールは違う。デザイナーから提案されたデザインは、100種類ほどあったそうだ。

 単純に10倍だからスゴいとか、数が多いからエラいといった話ではない。ビールにはビールにあった王道のデザインがある。「このタイプのビールには、こういったデザインがいいよね」といった感じで、ある程度の型が決まっている。デザイナーはその枠の中で、デザインをつくっていく。ということもあって、選びに選び抜かれたモノの中から、開発メンバーはパッケージのデザインを決めていくのだ。

パッケージデザインを決めるのに紆余曲折
羽田空港で「サントリー生ビールビアテラス」を期間限定で開催

 一方、サントリー生ビールは、そうした枠を取っ払った。100種類の中には、いわゆる定番のモノがあったり、これまで見たことがないモノがあったり、洗練されている(またはされていない)モノがあったり。そこから「このデザインはこっちの方向性だよね」「これはあっちの方向性かな」といった具合に、“方向性”というキーワードでふるいにかけていった。

 その後も議論を重ねていくうちに、最終候補のデザインが決まりつつあった。開発メンバーは文字の大きさやフォントなどを決めていく。読者の中には「デザインを決めることって、大変そうだなあ。いま店頭に並んでいるデザインは、理想の方向性の中から選ばれたのね」と思われたかもしれないが、話はまだまだ続く。

競合商品との差別化は難しいが……(出典:ゲッティイメージズ)

 絞りに絞り込まれたデザインを目の前にして、開発メンバーの中からこんな声が出てきたのだ。「このデザインは、ビールに求められる堂々としたデザインである。しかし、本当にそれでいいのか」と。最終案に残ったデザインであれば、スーパーやコンビニで並んでいるビールの“仲間”に入るかもしれない。しかし、消費者はこのように感じるのではないか。

 「同じようなビールが並んでいるよね」――。

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